お腹のしこり

【脾臓腫瘍】犬の脾臓摘出術

今回は、当院で行った脾臓摘出術の症例をご紹介します。

脾臓腫瘤のエコー画像

患者さん:ワンちゃん、ご高齢、去勢済みの男の子
半年ほど前、ご家族は患者さんのお腹の膨れに気が付かれました。その数か月後、よろめき、立ち上がれないなどの症状があり、他の動物病院で精査したところ、脾臓に腫瘍があることが判明、また貧血も起こしていました。そちらでは手術が困難ということで、当院を初めて受診されました。

脾臓とは、赤血球の貯蔵・放出、古い赤血球の破壊・成分のリサイクルなどの機能を備えた臓器で、たくさんの血管が走っています。ですから、脾臓の手術は大量出血を伴うリスクが高く、もしそうなった場合、命を落とす危険があります。
脾臓の腫瘍の1/3が良性腫瘍(血腫や結節性過形成)、残りの2/3が悪性腫瘍(リンパ腫、組織球肉腫、血管肉腫など)と言われています。特に犬の血管肉腫は脾臓での発生が最も多く(7-8割)、1/4で右心房への転移がみられます。良性・悪性いずれも、血栓形成、腫瘍破裂と腹腔内出血の危険をはらんでいます。
腫瘍の由来を調べるための組織検査は、腫瘍に針を刺し、回収した組織を調べる検査法ですが、出血を起こす危険があるため、脾臓における腫瘍の症例では行わないのが一般的です。
CT検査は確定診断、他の臓器への転移の評価に有効ですが、良性・悪性の鑑別が困難なこと、いつ破裂してもおかしくない状況であることから、現在は早急な外科的切除が第一選択治療です。脾臓のほとんどの機能は、他の臓器で代償することができるといわれています。

脾臓腫瘤の手術中の様子

手術をしなかった場合の腫瘍破裂の危険性、手術を行った場合の麻酔リスク、手術後の合併症などをご家族に説明し、ご家族は手術を選択なさいました。
手術でおよそ11cm×7cmの腫瘍を伴う脾臓を摘出しました。今回の患者さんが45cm程度の体長と考えると、非常に大きな腫瘍です。
摘出後の病理検査の結果、脾臓の腫瘤はリンパ濾胞過形成と診断されました。
リンパ球が現れる病理所見には、リンパ腫も疑われますが、今回はリンパ腫で見受けられるような敷石上の増殖はなく、大小さまざまな大きさのリンパ球が散在している所見でした。良性の過形成のため、腫瘍の様な切除後の転移・増殖の心配はなく、外科的な切除で根本的治療ができました。
貧血の改善がみられ、状態が安定するまで当院で療養していただき、手術当日から5日ほどで退院されました。

【おまけ・おうちでできる貧血チェック】

貧血を引き起こす病気はたくさんあります。以下の症状がある場合、何か病気が隠れているかもしれません。ご心配なことがあれば、遠慮なくご相談ください。
食欲・元気がない、以前よりも疲れやすい、呼吸が速い、失神など
歯茎・まぶたの裏の粘膜が白っぽい、耳の中が白っぽい、白目が黄色っぽい
※今回の症例は一例であり、同様の症例であっても、腫瘍の進行・転移・患者さんの基礎疾患などによって、治療法・手術の適応の有無が異なります。

よくある質問

Q.脾臓腫瘍は特定の犬種や年齢で発生しやすいのでしょうか?

A.はい、脾臓腫瘍は高齢犬で発見されることが多く、特に大型犬や中型犬にやや多い傾向があります。
ゴールデンレトリバー、ジャーマン・シェパードなどは発症リスクがやや高いといわれています。
ただし、全ての犬種や年齢で発症の可能性がゼロというわけではありません。

Q.手術後、脾臓がなくなることで犬の体調や生活に支障は出ませんか?

A.脾臓は赤血球の代謝や一部の免疫機能に関与しますが、ほとんどの機能は他の臓器が補うため、脾臓を摘出しても多くの場合、大きな後遺症はでません。
ただし、まれに免疫力がやや低下することがあるため、術後は感染症などに注意し普段より体調変化に気を配ることが大切です。

Q.脾臓腫瘍は予防できますか?

A.現時点では脾臓腫瘍の明確な予防法は確立されていません。
ただし、バランスの取れた食事や適度な運動、ストレスを減らすことは、犬の全身の健康維持に役立ちます。
また、定期的な健康診断による早期発見が、早期治療に結びつきます。

渋谷、恵比寿、代官山の動物病院(年中無休、年末年始も診察している動物病院)
HALU代官山動物病院
03-6712-7299
info@halu.vet

 
 

担当獣医師

腫瘍科

佐々木 (ササキ, Sasaki)獣医腫瘍科認定医1種、JAHA内科認定医

腫瘍の治療は画一的なものではなく、同じ疾患であってもその子やご家族の状況によって、最適と考えられる治療方法は異なります。
何かお困りの事があればご相談ください。

内科・循環器科・軟部外科

游 (ユウ, Yu)HALU代官山動物病院 院長

English/Chinese Speaking Veterinarian
「たとえ病気になったとしてもその中で一番幸せに暮らせるように」
患者さん、家族、獣医師間の密なコミュニケーションを大切にしています。

内科・眼科

宮本 (ミヤモト, Miyamoto)

English Speaking Veterinarian
動物たちからたくさんのことを感じ取り、からだへの負担をできる限り少なくすること、ご家族さまとのコミュニケーションの中で治療方針をご一緒に考えていくことを大切にしています。

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