<今回の症例>
13歳、パピオン
元気なく、おしっこがいつもより黄色い、かかりつけで脾臓腫瘍と疑われ、セカンドオピニオンとして当院へご来院されました。
エコー上で、直径6cm程度の腫瘍が認められ、血液検査ではPCV24%と貧血がありました。
脾臓の腫瘍の1/3が良性腫瘍(血腫や結節性過形成)、残りの2/3が悪性腫瘍(リンパ腫、組織球肉腫、血管肉腫など)と言われています。病理検査を行わない以上、診断はつけられませんが、良性・悪性どちらであっても腹腔内出血の危険をはらんでいるため、脾臓全摘出が必要です。

ご家族は手術を選択され、直径6cmの腫瘍を伴う脾臓を摘出しました。
手術中は幸い大きな出血・凝固不全もなく、輸血は行いませんでした。
病理検査では、血管内皮細胞が不整に異常増殖しており、血管肉腫との診断でした。病変には大網(腹腔内臓器を包む腹膜)との癒着があり、すでに腹腔内出血を起こしていた可能性が指摘されています。また、漿膜を超えて腫瘍細胞が増殖していたことから、腹腔内・肝臓への転移のおそれがあります。
今回の患者さんは、手術後に転移所見が見られたため、化学療法を開始しています。
<血管肉腫>
血管肉腫は、血管内皮由来の悪性腫瘍で、脾臓に最も発症が多い(血管肉腫の7-8割)です。
他の発生部位(転移部位)には、心臓(右心房)、肝臓、肺、腹膜などが挙げられます。
合併症として、DIC(播種性血管内凝固症候群;強い炎症などから体中で血栓を作りやすい状態。細い血管に血栓が詰まったり、それを溶かすための線溶系が働き出血しやすくなる。)や腹腔内出血が起こりやすく、その結果、血小板減少・貧血から血管肉腫の発覚に至るケースも多くあります。
<脾臓全摘出術>

脾臓は非常に血液に富んだ臓器ですので、脆い腫瘍に蝕まれている場合、腹腔内出血、それに伴うショック、死に至ることは大いに起こりうる状態です。また、脾臓から腫瘍の部分だけを切除することも大量失血のおそれがあり危険です。脾臓は、赤血球の貯蔵・放出、古い赤血球の破壊・成分のリサイクルなどの機能を備えた臓器ですが、ほとんどのその機能をほかの臓器で代償できるといわれています。そのため、脾臓全摘出が治療の第一選択となります。
他、血管肉腫の場合は補助的に化学療法を行う場合もあり、脾臓全摘出術のみでの予後は約3か月、脾臓全摘出術と化学療法を併用した場合の予後は約半年との報告があります。
※今回の症例は一例であり、同様の症例であっても、腫瘍の進行・転移・患者さんの基礎疾患などによって、治療法・手術の適応の有無が異なります。
よくある質問
Q.血管肉腫は特定の犬種に発症しやすいのでしょうか?
A.はい、血管肉腫は犬種による発症傾向があります。
特に大型犬のゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバーで発症率が高いとされています。
ただし、小型犬でも発症する可能性があるため、犬種に関わらず注意が必要です。
Q.血管肉腫の発症原因は何ですか?予防方法はありますか?
A.血管肉腫の明確な原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因や加齢などが関与していると考えられています。
残念ながら確実な予防方法はありませんが、定期的な健康診断による早期発見が重要です。特に高齢犬や好発犬種では、年に1〜2回の血液検査や腹部エコー検査を受けることで、早期発見につながる可能性があります。
Q.脾臓全摘出後の犬の生活で注意すべき点はありますか?
A.脾臓摘出後は感染症に対する抵抗力がやや低下する可能性があるため、体調管理に注意が必要です。
他の臓器への転移の可能性があるため、月1回程度の定期検査が推奨されます。
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