下痢

【IBD】犬、猫の下痢や嘔吐が続いている…IBD(炎症性腸疾患)ってどういう病気?

何となく下痢や嘔吐などの消化器症状が続いている、病院で薬をもらっても完全に治らない、食事を変えてみたけれどいまいち症状が安定しない…

このような状態に悩んでいる方は多いかもしれません。当院にもなかなか消化器症状が治らない動物たちが来院します。慢性的な消化器症状、特に下痢についてどのように診断、治療を考えていけば良いのでしょうか。

また、慢性的な消化器症状を特徴とする【IBD(炎症性腸疾患)】とはどのような疾患なのでしょうか。

◆慢性下痢に対する診断アプローチ

  1. 問診・身体検査
  2. 糞便検査…寄生虫や細菌などの感染性の消化器疾患かどうかを判断します
  3. 血液検査…膵炎や下痢を引き起こす内分泌疾患が見つかることがあります
  4. 画像検査…エコー検査の所見は診断のヒントになることが多いです
  5. 試験的な治療…抗菌薬や食事の変更で症状が良くなるかを観察します
  6. 内視鏡・病理組織学的検査

上記のような順番で診断を進めていくことで、慢性的な下痢に診断をつけていきます。

では、IBD(炎症性腸疾患)はどこの過程で診断されるのでしょうか。

◆IBD(炎症性腸疾患)ってどういう病気?

IBDの定義は以下のものといわれています。

  • 3週間以上の慢性的な消化器症状が続いている
  • 食事の変更や抗生剤による対症療法に完全に反応しない
  • 消化管に炎症を起こす原因が見当たらない
  • 病理組織学的に腸炎が明らかである
  • 免疫抑制療法に反応する

また、IBDが起こる原因としては、食事や腸管内の細菌叢の変化といった消化管内の要因、腸粘膜の免疫機能の異常、遺伝的な素因などさまざまな要因が組み合わさっているといわれています。

つまり、前述の診断プロセスの⑥まで進んでやっと診断されるのです。

全身麻酔が必要な内視鏡の検査を実施する前に、血液検査やエコーの検査でもIBDを疑うヒントが得られることも多いです。しかしながら、IBDと同じような検査結果を示す病気の一つに【消化管型リンパ腫】があるため、注意しなければなりません。

◆IBDと消化管型リンパ腫

消化管型リンパ腫とは、リンパ腫の中でもその部位が消化管膜リンパ節や消化管、肝臓などに限られているもののことを指します。エコー検査では肝臓、脾臓が腫れていることが分かることもあります。

IBD、消化管型リンパ腫のどちらも、血液検査でアルブミンが低値を示したり、腹部エコーで消化管の壁が肥厚して見えたり、と共通する検査所見があり、加えて内視鏡で肉眼的に観察しても区別ができないことが多く、確実に診断していくためには病理組織学的検査が必要となってきます。

病理組織学的検査とは、内視鏡、もしくは試験開腹手術を行い、実際に消化管の組織を採取してそれらの細胞や組織の様子を観察する検査のことをいいます。

◆IBDの治療

IBDの治療は抗炎症と免疫抑制療法が中心になります。症状の経過を観察しながら、少しずつ薬を減らしていくことを目標としていきます。また、消化管の細菌叢が変化している可能性を考えて抗生剤の併用や、消化に良い低脂肪の食事を始めることも多いです。

◇当院での症例の紹介

中年齢の猫ちゃんが、一年前から嘔吐、食欲不振、下痢を繰り返していると来院されました。

エコーの検査では、脾臓の一部が腫大して見える、消化管付近のリンパ節が腫れている、小腸の筋層が肥厚しているといった様子が観察されました。糞便の検査では感染性の疾患は見つかりませんでした。

また、手術までのあいだ消化器疾患用のごはんを続けてもらい、抗生剤を飲んでもらいましたが大きな改善は見られませんでした。

筋層の肥厚が見られる猫の消化管のエコー画像
筋層肥厚が見られる猫の消化管のエコー画像

(エコー画像:消化管の筋層が肥厚していることがわかります。)

腫れが見られる腹腔内リンパ節のエコー画像

(エコー画像:腹腔内のリンパ節が腫れているのがわかります。)

このような症状や検査結果から、IBD、消化管型リンパ腫が疑われ、これらを鑑別する目的で開腹手術をし消化管とリンパ節の病理組織学的検査を行う必要があると判断されました。また、猫の脾臓が腫れている場合、肥満細胞種という腫瘍性疾患が隠れている可能性があるため、脾臓の摘出も同時に行いました。

◇病理組織学的検査の結果

消化管では炎症細胞が多く、強い炎症が起きていると判断されました。一方で腫瘍性の変化は観察されませんでした。リンパ節においても腫瘍性の変化は認められず、反応性過形成、つまり免疫反応を刺激するような疾患の存在によってリンパ節が大きくなっていると判断されました。

脾臓に関しても腫瘍性のものではありませんでした。これらの検査結果から、この猫ちゃんはIBDと診断されました。

筋層の厚みが薄くなった消化管のエコー画像

(エコー画像:手術後の消化管の様子、手術前と比べて筋層の厚みが少し薄くなっているのがわかります。)

◇現在の治療

手術直後は免疫抑制剤を中心に治療を行い、同時に抗生剤や止瀉薬などを使用し、入院治療を行いました。少しずつお薬の量を減らして退院し、現在では消化器症状は落ち着いております。

このように、慢性的な消化器症状の診断には複数の検査を組み合わせることが大切になってきます。下痢や嘔吐、食欲不振など、気になる症状があるようであれば一度当院へご相談ください。

よくある質問

Q.IBDは完治する病気ですか? 

A.IBDは完治が困難な慢性疾患です。
適切な治療により症状をコントロールし、お薬の量を減らすことは可能ですが、多くの場合は長期的な管理が必要になります。
定期的な診察を受けながら、症状の再発を防ぐために継続的なケアが重要となります。

Q.IBDになりやすい犬種や猫種はありますか? 

A.特定の犬種・猫種での発症傾向が報告されています。
犬では若いジャーマンシェパードやボクサーなどの大型犬、猫では中年以降のシャム猫系の品種でやや多く見られるとされています。
ただし、どの犬種・猫種でも発症する可能性があるため、品種に関係なく症状に注意することが大切です。

Q.IBDの動物に与えてはいけない食べ物はありますか? 

A.高脂肪の食事、人間の食べ物、添加物の多いおやつなどは消化管に負担をかけるため避けるべきです。
また、個体によってはアレルギーを起こしやすいタンパク源(牛肉、鶏肉など)が症状を悪化させることがあります。

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「たとえ病気になったとしてもその中で一番幸せに暮らせるように」
患者さん、家族、獣医師間の密なコミュニケーションを大切にしています。

内科・眼科

宮本 (ミヤモト, Miyamoto)

English Speaking Veterinarian
動物たちからたくさんのことを感じ取り、からだへの負担をできる限り少なくすること、ご家族さまとのコミュニケーションの中で治療方針をご一緒に考えていくことを大切にしています。

内科・画像診断科

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English Speaking Veterinarian
多くの選択肢をわかりやすくオーナー様に提供でき、大切な家族の一員である子たちにとって最適な治療計画を一緒に見つけられる存在であるために、寄り添える獣医師を目指しています。

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てんかんを中心とした神経疾患とその治療について研究をしました。現在大学病院でも助教として脳神経科の診療に携わっています。

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永田 (ナガタ, Nagata)

病気と向き合う中でどうしたら現状を良くしていけるのか、プラスになりそうな 事をひとつひとつ考えながら、より良い時間を過ごせるようなお手伝いができたらと思っています。 些細なことでも、気軽にご相談ください。

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