今回ご紹介するのは犬の子宮蓄膿症についてです。
子宮蓄膿症とは、細菌感染により子宮の中に膿が溜まってしまう病気です。
避妊をしていない中年齢の雌犬に起こりやすく、発情出血開始1〜2ヶ月頃に発症することが多いと言われています。
子宮蓄膿症の発症にはメスの性ホルモンである黄体ホルモン(プロジェステロン)が関与していることが報告されています。発情が起こることで血中プロジェステロン濃度が上昇し、子宮内膜が増殖、そこに大腸菌などの細菌が感染することで発症してしまいます。
子宮蓄膿症になると、外陰部から膿が出てきたり、元気・食欲の低下、多飲多尿、発熱などの症状が見られることがあります。さらに症状が進行すると、血栓の形成や敗血症が起きたり、子宮破裂による腹膜炎を起こすことがあり、こうなってしまうと最悪の場合、死に至ります。
診断には、血液検査、レントゲン検査、エコー検査を用います。
子宮蓄膿症の根本的な治療法は外科手術です。開腹し、膿の溜まった子宮および卵巣を全摘出する事で治療、再発の防止ができます。
では当院に来院した実際の症例のご紹介です。
※手術の様子が写った写真があります。苦手な方はご注意ください。※
症例は10歳のメスのラブラドールで、1週間前より外陰部から排膿がみられるとのことで来院されました。
血液検査では炎症細胞である白血球の上昇、腎数値の上昇がみられ、また急性炎症が起きていると上昇するCRPが非常に高値になっていました。
レントゲン検査では大きく拡張した子宮がみられ、周囲の臓器が追いやられていることがわかります。

腹部エコー検査では、内部に液体が溜まった子宮を確認する事ができます。

手術方法は基本的には避妊手術と同様ですが、今回は子宮がかなり大きく拡張していたこともあり、広く開腹しました。卵巣と子宮の根元をシーリング、または糸で結紮し、子宮及び卵巣を全摘出、生理食塩水でよくお腹を洗浄して終了です。

開腹時の様子。大きく拡張した子宮が確認できます。

膿を採取して細菌培養検査を行ったところ、病原菌は大腸菌である事がわかりました。
←子宮から採取した液体(膿)
一週間ほど入院して抗生物質や点滴・注射による治療を行い、現在は元気に普段通りの生活を送る事ができています。
子宮蓄膿症は命を落とす病気です。一番の予防法は避妊手術です。
手術にはリスクもありますが、避妊手術で予防できる病気は他にもたくさんありますので、手術に迷っている方はお気軽にご相談ください。
今回のわんちゃんは外陰部から膿が出ていたためオーナー様も気づくことができ、早期に治療することができました。しかし外陰部から膿が出ないケースもあり、その場合発見が遅れてしまうこともあります。特に中年齢以上の女の子のわんちゃんを飼っている方は、日頃から元気や食欲に注意してあげられるといいでしょう。
なにか普段と違う様子が見られましたら、動物病院までご連絡ください。
よくある質問
Q.子宮蓄膿症はどの犬種でも発症しますか?
A.子宮蓄膿症は特定の犬種に限らず、基本的に避妊していないすべての雌犬で発症リスクがあります。
ただし、中〜大型犬や高齢の雌犬で発症率が高い傾向があります。
犬種による明確な違いは大きくありませんが、どの犬種でも注意が必要です。
Q.子宮蓄膿症の予防のために、避妊手術以外でできることはありますか?
A.子宮蓄膿症は黄体ホルモンの変化が発症に関わるため、確実な予防法は避妊手術です。
避妊手術以外で完全に防ぐ方法はありませんが、発情後1〜2ヶ月の時期は特に注意して日々の体調や食欲を観察し、異変があれば早めに受診することが重要です。
Q.子宮蓄膿症になった場合、手術以外の治療はありますか?
A.手術ができない高齢犬・重症の子では、抗生物質やホルモン剤による内科的治療が試みられることもあります。
しかし、根本的な改善や再発防止には手術が最も有効であり、手術以外の治療はあくまで一時的・補助的なものです。
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