『腸捻転』とは、体の中で腸が本来あるべき位置ではなく、ねじれた状態にあることをいいます。
今回は、検査・手術をしていく中でこの腸捻転が発見された症例を紹介いたします。
来院時の症状
昨日から液体を嘔吐することが続いている、元気も食欲もないとのことで4歳のパグのわんちゃんが来院されました。何か明らかに誤食してしまったなど、特別な心当たりはないとのことでした。
検査
血液検査と超音波検査、レントゲン検査を行い全身状態を確認しました。検査の結果、血液検査からはCRPという犬の炎症マーカーが高値でしたが、他の項目は正常値で嘔吐や食欲不振につながるような代謝性の疾患は見当たりませんでした。一方で、腹部の超音波検査では消化管の鬱滞がひどく、またレントゲンの検査でも消化管内にガスが溜まっていることから、内容物がスムーズに流れていないことがわかりました。

(↑消化管内にガスが溜まっている様子)

(↑十二指腸にうっ滞した液体の様子)
このような消化管の鬱滞がある場合、原因がいくつか考えられますが、頻回の嘔吐といった症状から誤食や腫瘍、捻転などの物理的な要因によって消化管が閉塞している可能性が考えられました。
次に、消化管の閉塞の位置と程度を確認するため、またその原因となる異物などが描出される可能性を考え、バリウム検査を行いました。バリウム造影剤を飲んでもらい、時間ごとにレントゲン撮影を実施しました。

造影6時間たった時点で胃から一切造影剤が排出されませんでした。この時点で胃の出口かその少し下部である十二指腸に、何かしらの原因があると考えられました。
消化管が完全閉塞しているこのようなケースでは手術で原因を取り除くしかなく、対応が遅ければ腸管穿孔など命に関わる事態を引き起こすリスクがあります。この子は急遽、内視鏡、開腹手術を行うことになりました。
手術
まずは内視鏡で胃内や腸内に異物がないか確認し、明らかな異物は確認されなかったことから開腹手術になりました。
手術ではバリウム検査で異常が見られた胃の出口から十二指腸の範囲を慎重に観察していきました。すると、十二指腸が本来の走行ではなく隣にある脾臓の裏をくぐり捻れていることが分かりました。つまり今回のケースでは十二指腸が『腸捻転』を起こし閉塞を起こすことで食欲不振や慢性的な嘔吐を引き起こしていたのです。

手術中の写真から、腸全体が鬱血しており、捻転していた部分で血流が阻害されていたことが分かります。腸管全体が癒着していましたが、幸いにも、手術の時点では壊死を起こしている部分は見られませんでした。
経過
手術後のレントゲンでは、しっかり胃からバリウムが排出され、小腸、大腸と滞りなく流れている様子がわかります。

また、エコー検査でも、十二指腸の炎症や鬱滞が改善している様子がわかります。
手術から1ヶ月後の診察でも、消化器症状はなく、経過は良好です。
自宅のわんちゃん、猫ちゃんが食欲がなく、頻回に嘔吐している場合、このような腸捻転といった病気が隠されている可能性があります。少しでもおかしいな、と思ったら早めにご来院ください。
よくある質問
Q.腸捻転・胃捻転は特定の犬種や年齢でなりやすいですか?
A.腸捻転や胃捻転は、大型犬や深胸犬種(シェパード、グレートデーンなど)で発生しやすい傾向があります。
特に胃捻転は中高齢で発症例が多いですが、若齢でも起こることがあります。
小型犬でもまれですが、腸捻転を起こすことがあるため、全犬種・全年齢で注意が必要です。
Q.腸捻転や胃捻転の予防策はありますか?
A.完全な予防は難しいですが、早食いや大量の水分摂取、食後すぐの運動を避けることが重要です。
また、1日の食事量を数回に分けて与えるのも効果的です。
Q.発症した場合、どれくらいのスピードで動物病院に連れて行くべきですか?
A.腸捻転や胃捻転は、急激に病状が悪化し生命を脅かす緊急疾患です。
数時間の遅れが命取りになることもあるため、「繰り返し吐く」などの症状がみられたら、すぐに動物病院を受診してください。
早期の診断・治療が生存率を高めます。
渋谷、恵比寿、代官山の動物病院(年中無休、年末年始も診察している動物病院)
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