今回は、免疫介在性溶結性貧血に罹患した患者さんの症例報告です。
<今回の症例>
7歳、トイプードル、避妊雌
発熱があり血液検査を行うと、ヘマトクリット値が24%(血液中に赤血球が占める割合;基準値37-55%)で貧血を起こしており、また高ビリルビン血症*(ビリルビンは生体内で赤血球が壊れてできるもの)がみられました。活動性・食欲は変わらずあるとのことでした。
血液塗抹上で赤血球の凝集像がみられ、免疫介在性貧血と診断しました。
*成犬期の血中のビリルビン濃度が上がる理由として①ビリルビンを排泄する経路;胆道系が閉塞している②赤血球が積極的に壊されている③肝臓でビリルビンを排泄できる形にできていない などが挙げられます。
<免疫介在性貧血とは>
何らかの原因により赤血球の細胞膜上の抗原に対する抗体が産生され、食細胞の貪食作用によって血球が障害され、その寿命が著しく短縮し、血球減少をきたす病態です。自身の免疫が赤血球を攻撃するため、免疫介在性と呼ばれます。
犬の免疫介在性溶結性貧血は特発性(原因の特定が困難)の場合が多いと言われており、発生は雌のほうが多く、犬種でみるとプードル、コッカー・スパニエル、アイリッシュ・セターにおいて罹患が多いという報告があります。
<症状>
食欲不振、ぐったり、歯茎が白っぽい~黄色っぽい、遊びに誘ってこない・散歩ですぐ立ち止まる・疲れやすいなどが挙げられます。
<治療>
自己の免疫が貧血を引き起こしているため、お薬で過剰な免疫を抑えることが治療法です。
免疫を抑えるお薬は多数ありますが、お薬によって抑える免疫の箇所が異なるため、治療反応をみながら、お薬を選んでいきます。
免疫反応を抑えることで、連鎖的な免疫反応を抑え、過剰な免疫反応を落ち着かせることができます。そのため治療方針としては、貧血の数値が下げ止まり治療反応ありと判断できれば、徐々にお薬を減らしていき、お薬がなくとも自身の赤血球を攻撃しないことが最終目標となります。
しかしお薬を減らしていく段階で病気の再発がみられれば、お薬を続けていかなくてはいけないという判断になる場合もあります。
また、治療反応が悪く、貧血が著しく進行した場合、輸血の選択肢が挙がる場合もあります。
しかし、患者さんへの輸血には一定のリスクがあります。
また、自身の赤血球でさえも自己の免疫に攻撃を受けているのだから、輸血血液に対しても免疫反応を過剰に起こすかもしれないというのは視野に入れておかなければなりません。輸血前に患者さん・血液提供者さんの赤血球・抗体を含む血漿を一緒に入れても攻撃しないかどうかの試験(クロスマッチ)を行い、輸血できるかどうか試験します。
そのため、貧血が起きているからすぐ輸血というよりも、一時的な時間稼ぎとしての位置づけで輸血を行います。
当院では、公式LINEでの輸血協力の連絡に快くご反応いただける飼い主様がいらっしゃり、そのたびに私共スタッフ・患者さん・患者さんご家族、心より感謝しております。本当にありがとうございます。
<予後>
免疫介在性溶血性貧血の死亡率は30-80%と報告によりますがかなり高い場合があり、急性期に適切な治療を行ってあげることが非常に重要です。
いつもと少しでも違う様子があれば、ご遠慮なく、すぐにご相談下さい!
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