犬の脾臓腫瘍は、症状がほとんどないまま進行し、ある日突然
「元気がない」
「立てない」
といった異変として現れることがあります。
特に、脾臓の腫瘍としてよく見られる「血管肉腫」は、腫瘍が破裂するとお腹の中で大量出血を起こし、命に関わる状態に陥ることも少なくありません。
しかし、脾臓の血管肉腫は血液検査だけでは見つけにくく、発見には超音波検査による画像診断が重要です。
この記事では、犬の脾臓腫瘍の診断や治療について、当院で診断・治療を行った症例のご紹介を混じえながら解説します。
愛犬の体調変化が気になる飼い主様はぜひ最後までお読みいただき、参考にしていただければ幸いです。
犬の脾臓腫瘍とは?
犬の脾臓腫瘍は、「脾臓」というお腹の中にある臓器にできる腫瘍です。
脾臓は、
- 血液の貯蔵する働き
- 古くなった赤血球を処理する働き
- 免疫に関わる働き
などを担っています。
犬の脾臓腫瘍は、中高齢のゴールデン・レトリーバーやジャーマン・シェパードなど大型犬にできることが多いですが、年齢や犬種に関係なく発症する可能性もあります。
脾臓腫瘍のもっとも怖い点は、症状が出にくいまま進行することです。
脾臓腫瘍が大きくなっていても、普段通りに生活しているケースは珍しくありません。
しかし、脾臓には血液がたくさん集まっているため、ひとたび脾臓腫瘍が破裂するとお腹の中で大量出血を起こし、急激な貧血やショック状態につながります。
突然、以下のような症状が見られる場合は注意が必要です。
- 元気がなくなる
- 食欲が落ちる
- 呼吸が速くなる
- 歯ぐきが白くなる
- ふらつく、倒れる
- お腹が張る
なお、腫瘍からの出血量が少なく、自然に出血が止まった場合は、一時的に回復したように見えることもあります。
しかし、再出血すると急激に状態が悪化する場合があり、緊急手術が必要になるケースも少なくありません。
脾臓腫瘍は良性から悪性までさまざまですが、特に注意が必要なのが「血管肉腫」です。
血管肉腫は血管を作る細胞ががん化する悪性腫瘍で、進行が早く、転移しやすい性質を持っています。
犬の脾臓腫瘍の診断はどうする?
犬の脾臓腫瘍は、血液検査のみで早期発見することが難しい病気です。
出血が起きていない段階では、血液検査に大きな異常が現れないこともあります。
そのため、血液検査が正常でも安心とは言い切れません。
犬の脾臓腫瘍の発見には以下のような画像検査が重要です。
- 腹部超音波検査
- 腹部X線画像検査
- CT検査
特に腹部超音波検査では、脾臓腫瘍や腹腔内出血の有無を確認できます。
健康診断の際に画像検査を定期的に受けることで、無症状の段階で見つかる場合もあります。
基本的に、脾臓腫瘍は画像検査だけで良性・悪性を完全に見分けることはできません。
確定診断には摘出後の病理検査が必要です。
そのため、脾臓に腫瘍が見つかった場合には、
- 腫瘍の大きさ
- 出血の有無
- 転移の可能性
- 全身状態
などを総合的に判断し、手術を検討します。
脾臓腫瘍の治療は?
脾臓腫瘍では、脾臓摘出手術がもっとも重要な治療となります。
特に、脾臓腫瘍から出血している場合は、命を救うための緊急手術が必要です。
脾臓はすべて摘出しても生活にはほとんど支障ありません。
摘出した脾臓は病理検査を行い、腫瘍の種類や、腫瘍をすべて取り切れているのかを詳しく調べることが必要です。
その結果、脾臓の腫瘍が過形成や、血腫といった良性のものだった場合は、手術により完治が期待できます。
一方、血管肉腫などの悪性腫瘍だった場合は追加の治療が必要な可能性があります。
特に、血管肉腫は転移率が高く、手術時点ですでに肝臓や肺などへ転移している場合も少なくありません。
その場合は、全身状態などを考慮しながら術後に抗がん剤治療を組み合わせます。
いずれの場合も、早期に脾臓を摘出することが予後の改善につながる重要なポイントです。
元気・食欲が急激に低下した犬の脾臓腫瘍の実際の症例(症例1)
今回ご紹介するのは、8歳齢のビーグルの避妊雌の症例です。
ある日突然、元気と食欲が急激に低下し、かかりつけ病院を受診されました。
初診時には「肝臓腫瘍からの出血」と診断され、止血剤が処方されたものの、症状の改善が見られませんでした。
そのため、セカンドオピニオン目的で当院を受診されています。
来院時は明らかな元気消失があり、貧血も疑われる状態でした。
当院で腹部超音波検査を実施したところ、肝臓ではなく脾臓に3cm大の腫瘍を確認しました。
次の写真が超音波検査で見つかった脾臓腫瘍です。

さらに、腹腔内出血を起こしていることも疑われたため、緊急で脾臓摘出手術を行いました。
開腹し、脾臓をお腹の外に出しているところです。

この症例では脾臓腫瘍の破裂による腹腔内出血が起きていたため、脾臓の表面やガーゼにも多くの血液がみられます。
以下は摘出した脾臓の写真です。

こちらは、お腹の中に出血した血液が固まってできた血餅(けっぺい)です。

犬のヘマトクリット値(貧血の程度を示す値)は一般的に35〜55%程度ですが、手術直前のヘマトクリット値は19%まで低下していました。
しかし、脾臓を摘出したことにより、ヘマトクリット値は30%まで改善しました。
術後は徐々に元気と食欲が回復し、無事に退院できています。
摘出した脾臓は、病理検査で「血管肉腫」と診断されました。
脾臓の血管肉腫は進行が速く、破裂すると命に関わる危険な腫瘍です。
今回の症例は、他院の画像診断で肝臓腫瘍と誤診され、根本的な治療には至っていませんでした。
しかし、当院で画像検査を行った結果、実際には脾臓腫瘍の破裂による腹腔内出血が体調不良の原因であることが判明しました。
その結果、すみやかに手術へ移行できたことが救命につながったと考えられます。
健康診断時に脾臓腫瘍が見つかった実際の症例(症例2)
もう1例、簡単に別の脾臓腫瘍の症例をご紹介します。
この症例では、健康診断時に偶然脾臓腫瘍が見つかりました。
以下の写真は、超音波検査の画像です。

症状はありませんでしたが、破裂する危険性なども鑑みて、脾臓を摘出しました。
以下は、摘出した脾臓の写真です。

このように5cm大の腫瘍であっても、破裂しなければ何も症状はありません。
しかし、脾臓腫瘍が破裂すると、ある日突然、元気・食欲の低下やふらつきなどの症状を引き起こすことがあります。
本症例は健康診断の際の画像検査を受けることで、脾臓腫瘍が破裂という重大な事態になる前に発見することができました。
犬や猫の脾臓腫瘍を早期に見つける方法については以下の記事もチェックしてみてください。
犬猫の脾臓腫瘤を早期に見つける方法|血液検査ではわからない?
まとめ
脾臓腫瘍は症状がほとんどないまま静かに進行する上、血液検査だけでは発見できない場合があります。
今回ご紹介した2症例では、定期的な画像検査の有無が、脾臓腫瘍を破裂前に発見できるかどうかの大きな分かれ目となりました。
愛犬の健康を守るためにも、健康診断では血液検査だけでなく、画像検査も受けるようご検討ください。
当院では、年中実施しているDogDocや、年2回の画像検査を含む健康診断キャンペーンを行っています。
脾臓腫瘍や健康診断について、不明点や疑問点があれば当院までお気軽にご相談ください。
実際に健康診断で小さな脾臓腫瘍を早期発見し、悪性腫瘍であっても問題なく過ごせている症例もあります。
大切な家族を守るためにも、定期的な画像診断による早期発見・早期治療をご検討ください。
よくある質問
Q.犬の脾臓腫瘍は予防できますか?
A.現時点では、犬の脾臓腫瘍を確実に予防する方法は確立されていません。
ただし、定期的な画像検査を含む健康診断により、破裂前の早期発見が可能です。
特に7歳以上の中高齢犬や、ゴールデン・レトリーバーなどリスクの高い犬種では、年1〜2回の超音波検査を受けることが推奨されます。
Q.脾臓を摘出した後、犬の生活や免疫力への影響はありますか?
A.脾臓を摘出しても、犬の日常生活への支障はほとんどありません。
脾臓が担っていた免疫や血液処理の機能は、肝臓やリンパ節など他の臓器がある程度補います。
ただし、術後も定期的な健康チェックを続けることが大切です。
Q.脾臓の血管肉腫と診断された場合、余命はどのくらいですか?
A.脾臓血管肉腫は転移率が高い悪性腫瘍で、手術のみの場合の生存期間中央値は1〜2ヶ月程度とされています。
術後に抗がん剤治療を組み合わせることで、生存期間が4〜6ヶ月程度に延長できるケースもあります。
余命には個体差があるため、担当獣医師と十分に相談しながら治療方針を決めることが重要です。
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