犬の避妊手術は、獣医療のなかでもっとも多く行われている手術のひとつです。
犬を迎えたとき、「避妊手術をどうするか」は、多くの飼い主様が一度は考えるテーマです。
近年の研究では、犬種や体格によって避妊手術の最適な時期やリスクが異なることがわかってきています。
この記事では、犬の避妊手術のメリット・デメリット、最適な時期などについて最新の研究データをもとにわかりやすく解説します。
犬の飼い主様はぜひ最後までお読みいただき、避妊手術を受ける際の参考にしてみてください。
避妊手術のメリットとは?乳腺腫瘍と子宮蓄膿症の予防

犬の避妊手術とは、メス犬の卵巣、あるいは卵巣と子宮を外科的に摘出する手術です。
避妊手術の最大のメリットは、乳腺腫瘍や子宮蓄膿症といった命に関わる病気を予防できることです。
とくに乳腺腫瘍の予防効果は、手術の時期と深く関わっています。
初回発情前に避妊手術を行った場合の予防効果がもっとも高く、初回発情後、2回目以降と発情を重ねるごとに予防効果は小さくなります。
つまり、乳腺腫瘍をしっかり予防したいなら、できるだけ初回発情前の避妊手術が効果的ということです。
子宮蓄膿症についても、避妊手術を受けた犬では発症リスクが大幅に下がることがわかっています。
子宮蓄膿症は進行が早く、放置すると敗血症から命を落とすこともある怖い病気です。
子宮蓄膿症を避妊手術で防ぐことは犬の命を守ることにつながります。
避妊手術の寿命への影響も見逃せません。
避妊手術を受けたメス犬は、受けていない犬と比べて寿命が約23〜26%長くなるというデータがあります。
このように避妊手術は犬の健康を守るための大切な手術ですね。
避妊手術のデメリット・リスクは?犬種による違いに注意
避妊手術は全身麻酔を伴う外科手術です。
麻酔や出血に伴うリスクはゼロではありませんが、若くて健康な犬であれば重い合併症が起きる可能性は低く、過度に心配する必要はありません。
ここでは全身麻酔以外の避妊手術のデメリット・リスクをご紹介します。
太りやすくなる
避妊手術の術後にもっとも多い変化が、太りやすくなることです。
ホルモンバランスの変化によって代謝が落ち、今までと同じ食事量でも体重が増えやすくなります。
肥満はさまざまな病気の引き金になるため、術後の食事管理・体重管理はとても大切です。
尿失禁(大型犬に多い)
体重15kg以上の中〜大型犬では、術後に「ホルモン反応性尿失禁」が起こることがあります。
ホルモン反応性尿失禁は寝ているときなどに無意識に尿がもれてしまう症状で、中〜大型犬での発生率は約9%、小型犬では約1.4%です。
また、生後3ヵ月未満で手術した場合は、それ以降に手術した場合よりも発生率が高いという報告もあります。
ただし、多くの場合は内服薬で症状を抑えることができます。
関節疾患や腫瘍のリスク(特定の大型犬種で要注意)
近年の研究で注目されているのが、特定の大型犬種で避妊手術のタイミングによって関節の病気や一部の腫瘍のリスクが変わるという点です。
大型犬種では「早ければ早いほどよい」とは限らないため、犬種に合わせた判断が大切です。
ここでは代表的な犬種ごとのポイントをご紹介します。
ゴールデン・レトリバー
ゴールデン・レトリバーは1歳未満で避妊手術を行うと、前十字靭帯断裂のリスクが高まります。
一方で避妊が遅れると乳腺腫瘍のリスクが上がります。
ゴールデン・レトリバーは早期の避妊手術を優先しつつ、体重管理をしっかり行うことで前十字靭帯断裂のリスクを減らすことが重要です。
ラブラドール・レトリバー
ラブラドール・レトリバーは2歳未満の避妊で股関節形成不全のリスクが上がるとされています。
早期に避妊手術を行う場合は、股関節への負荷を減らすために肥満を防ぐことが大切です。
ジャーマン・シェパード
ジャーマン・シェパードは1歳未満の避妊手術で前十字靭帯断裂と尿失禁のリスクが高まります。
一方で、乳腺腫瘍や子宮蓄膿症の発生率は低いという報告もあります。
ジャーマン・シェパードはなるべく1歳を越えてから手術を受けることが病気の予防に重要です。
ロットワイラー
ロットワイラーは1歳未満の早期避妊では、骨肉腫(骨のがん)の発生率が顕著に高くなります。
ロットワイラーは6〜8歳で避妊した犬のほうが、2歳以下で避妊した犬よりも長生きする可能性が約4倍高いという報告もあります。
避妊手術の方法とは?卵巣摘出術と卵巣子宮摘出術について
犬の避妊手術の方法は卵巣のみを摘出する卵巣摘出術と、卵巣と子宮を両方摘出する卵巣子宮摘出術の2種類です。
複数の研究では「卵巣を確実に取り切ればどちらでも効果や安全性に差はない」と結論づけられています。
どちらの方法でもホルモン関連の病気をしっかり予防でき、術後の合併症や痛みの程度にも大きな差はありません。
ただし、すでに子宮の病気がある場合や妊娠中の場合は卵巣子宮摘出術が選ばれます。
また、止血の方法についても、従来の糸で縛る方法に加え、血管シーリング装置を使う方法が広まっています。
血管シーリングとは、高周波電気エネルギーを使って血管を封鎖することです。
シーリングは手術時間を短くできるほか、糸を使わないため、糸に対する体の反応(肉芽腫)を避けられる可能性があるのがメリットです。
犬の避妊手術の方法について気になる場合は事前にご相談ください。
避妊手術の最適なタイミングは?

「避妊手術はいつ行うのがよいの?」
このようなお悩みをお持ちの飼い主様は少なくありません。
避妊手術の最適なタイミングは、犬種・体格などによって変わります。
ここでは犬種や体格別の最適な避妊手術のタイミングについて解説していきます。
小型犬・中型犬
小型犬や中型犬では骨の成長が比較的早く安定するため、生後6〜9ヵ月齢を目安に避妊手術を検討するのが一般的です。
乳腺腫瘍の予防を重視するなら、初回発情前が望ましいです。
ただし、尿失禁のリスクを考えると生後3ヵ月未満の避妊手術は避けましょう。
大型犬・超大型犬
大型犬・超大型犬では、先ほどご紹介したように1歳未満の早期避妊で関節疾患や一部の腫瘍リスクが高まる犬種が複数報告されています。
そのため、犬種によっては生後12ヵ月齢以降まで手術を待ったほうがよい場合があり、乳腺腫瘍の予防効果との兼ね合いを個別に検討することが重要です。
特にロットワイラーのように、避妊の時期が寿命にまで影響するデータがある犬種では、獣医師と慎重に相談しましょう。
まとめ
犬の避妊手術は、乳腺腫瘍や子宮蓄膿症の予防に効果があり、寿命の延長にもつながるため、総合的にはメリットの大きい選択肢です。
一方で、犬種や体格によっては関節の病気や一部の腫瘍リスクが高まることも近年の研究で明らかになっています。愛犬の犬種や健康状態などをふまえて獣医師としっかり相談し、ベストな選択をできるようにしましょう。
犬の避妊手術についてお悩みや不安なことがあれば、遠慮なく当院までご相談ください。
よくある質問
Q.避妊手術後の犬の過ごし方や注意点はありますか?
A.避妊手術後は静かに過ごせる環境で安静にし、舐めたり掻いたりしないようエリザベスカラーを使用します。
散歩や運動は獣医師の指示に従い徐々に再開し、傷口の腫れや赤み、食欲不振がないか日々観察しましょう。
Q.避妊手術後の発情や性格の変化は起こりますか?
A.避妊手術後は卵巣・子宮が摘出されるため発情は起こらなくなります。
性格が大きく変わることは少ないですが、まれに穏やかになる傾向が見られることもあります。
個体差があり、極端な問題行動の悪化はまれです。
Q.避妊手術後の食事管理はどのように行えばよいでしょうか?
A.術後は代謝が落ちて太りやすくなるため、手術前の食事量から10-20%減量し、低カロリーフードへの変更を検討しましょう。
体重を週1回測定し、理想体重を維持できるよう調整します。
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