「最近、愛猫の呼吸が荒くなった」
「食後に苦しそうにしている」
猫のこうした変化は、横隔膜ヘルニアの可能性があります。
横隔膜ヘルニアとは、胸とお腹の空間を仕切る横隔膜に穴や裂け目が生じ、腹部の臓器が胸の中へ入り込んでしまう病気です。
横隔膜ヘルニアの根本的な治療には外科手術が必要であり、発見が遅れると呼吸困難により命に関わるケースもあります。
本記事では、猫の横隔膜ヘルニアの症状や手術について、獣医師の立場から詳しく解説いたします。
猫の飼い主様はぜひ最後までお読みいただき、横隔膜ヘルニアの理解を深めましょう。
猫の横隔膜ヘルニアとは
横隔膜ヘルニアは、横隔膜の隙間からお腹の臓器が胸の中へ飛び出てしまう病気です。
横隔膜ヘルニアの原因は大きく「外傷性」と「先天性」の2つに分けられます。
外傷性の横隔膜ヘルニアは交通事故や高所からの落下など強い衝撃で横隔膜が破れるもので、猫の横隔膜ヘルニアの大多数を占めている病態です。
外傷による横隔膜ヘルニアでは、外見上は軽傷に見えても、体内では肝臓や腸が胸の中へ入り込み肺を圧迫しているケースがしばしば確認されています。
このようなケースでは交通事故や落下から数時間〜数日後に急に呼吸が荒くなることもあるので注意が必要です。
一方、先天性は生まれつき横隔膜の形成が不完全なタイプであり、心膜横隔膜ヘルニアが代表例として知られています。
先天性の横隔膜ヘルニアは長年にわたり無症状のまま経過し、健康診断などでレントゲンを撮った際に偶然発見されることもあります。
横隔膜ヘルニアは外見だけで判断することが困難なため、少しでも呼吸に異変を感じた際はすみやかな受診が大切です。
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猫の心膜横隔膜ヘルニアとは|心不全を疑われた心膜横隔膜ヘルニアのマンチカンの一例
横隔膜ヘルニアが疑われる猫の症状と診断方法

横隔膜ヘルニアの症状は、胸の中へ飛び出した臓器の種類や量によって大きく異なります。もっとも多い初期症状は呼吸の変化であり、安静時にも呼吸回数が増えたり、開口呼吸をすることが多いです。
そのほか、食欲の低下や嘔吐などの消化器症状を伴うこともあり、胃や腸が胸の中に移動している場合によくみられます。
横隔膜ヘルニアの診断ではレントゲンや超音波などの画像検査が重要です。
レントゲン検査で胸の中に本来存在しない臓器が確認できれば、横隔膜ヘルニアを強く疑う根拠となります。
ただし、レントゲン検査だけでは確定が難しいケースもあるため、超音波検査を併用して臓器の位置関係を正確に把握することが必要です。
超音波検査では胸の中に飛び出している臓器の種類を評価できます。
横隔膜ヘルニアではこれらの検査を組み合わせることで、手術の緊急度などを的確に判断することが可能です。
猫の横隔膜ヘルニア手術の流れと方法

横隔膜ヘルニアと診断された場合、多くのケースで外科手術が必要になります。
内科治療だけでは根本的な解決にならず、臓器を元の位置に戻し横隔膜の損傷部を閉鎖する手術が不可欠なためです。
手術は全身麻酔下で行い、胸の中へ移動してしまった臓器を一つずつ丁寧にお腹の中へ戻していきます。
発症から時間が経っている症例では臓器が周囲の組織とくっついてしまっていることがあり、その場合は慎重に作業を進めなくてはなりません。
すべての臓器を元の位置に戻した後、横隔膜の裂け目部分を縫い合わせてふさぎ、胸の中にたまった余分な空気を抜いて手術は終了です。
手術にかかる時間はおおむね1〜2時間程度ですが、臓器がくっついていたり一部が傷んでいたりする場合はさらに長くなることがあります。
横隔膜ヘルニアの術後の入院期間は経過が順調であれば1週間前後が目安です。
胸腔ドレーン(胸にたまった液体を排出する管)の管理や呼吸の状態を確認しながら退院の判断が行われます。
横隔膜ヘルニアを放置した場合に起こりうるリスク
横隔膜ヘルニアにおいてもっとも避けたいのは、治療が遅れることで猫の体の状態がさらに悪くなってしまうことです。
胸の中に入り込んだ臓器が長い時間そのままになると、臓器への血流が悪くなることがあります。
その結果、臓器障害や機能低下により命に関わる状態に陥ることも少なくありません。
また、横隔膜ヘルニアを発症してからの時間が長いほど、臓器が周囲の組織とくっつく癒着(ゆちゃく)が進みます。
臓器の癒着があると手術操作が複雑になり、出血量の増加や手術時間の延長につながるため注意が必要です。
外傷後に一見元気そうに見える猫でも、体の中では横隔膜ヘルニアの症状が進んでいるケースがあります。
「もう少し様子を見よう」
と判断を先延ばしにせず、事故や落下の直後に検査を受けることが、愛猫の命を守るうえで重要です。
まとめ
猫の横隔膜ヘルニアは、放置すると呼吸困難など命に関わる合併症を引き起こす可能性がある病気です。
呼吸の異常や食欲低下などの症状が見られた場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
特に交通事故や落下の直後は、外見に異常がなくても念のため検査を受けることが大切です。
横隔膜ヘルニアは原因に関わらず、根本的な治療には手術が必要です。
当院では横隔膜ヘルニアの診断から手術まで一貫した体制で対応しております。
少しでも気になる症状がございましたらお気軽にご相談ください。
よくある質問
Q.猫の横隔膜ヘルニアは手術後に再発することはありますか?
A.適切に手術が行われた場合、横隔膜ヘルニアが再発することは多くありません。
ただし、術後早期に強い衝撃を受けたり、重度の外傷で組織の損傷が大きかった場合には、まれに再発する可能性があります。
術後は呼吸状態や食欲などを定期的に確認し、異常があれば早めに動物病院を受診することが重要です。
Q. 猫の横隔膜ヘルニアの手術後は普段どおりの生活に戻れますか?
A.術後の経過が順調であれば、多くの猫は普段どおりの生活に戻ることが期待できます。
ただし、退院後しばらくは激しい運動や高い場所へのジャンプを避け、安静に過ごすことが大切です。
食欲や呼吸状態をよく観察し、獣医師の指示どおりに通院や内服を続けることで、より良い回復につながります。
Q. 猫の横隔膜ヘルニアの手術は全身麻酔でも安全に受けられますか?
A.横隔膜ヘルニアの猫は呼吸機能が低下していることが多いため、健康な猫よりも麻酔のリスクは高くなる場合があります。
麻酔中は心拍数や血圧などを継続的に監視しながら手術を行うことが大切です。
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