犬が突然倒れて意識を失ったら、飼い主様は大変驚かれることでしょう。
このように一時的に意識がなくなる症状を「失神」といいます。
犬の失神にはさまざまな原因が考えられますが、見落とされやすい原因の一つが「肺高血圧症」です。
肺高血圧症は心臓や肺に大きな負担をかける深刻な病気であり、適切な治療をしなければ失神を繰り返し、最悪の場合は命に関わることもあります。
この記事では、犬の肺高血圧症と失神の関係や早期発見のために飼い主様ができることを獣医師の視点から詳しく解説します。
犬の飼い主様はぜひ最後までお読みいただき、肺高血圧症の早期発見にお役立てください。
犬の肺高血圧症とは?失神が起こるメカニズム
肺高血圧症とは、肺動脈の血圧が異常に高くなってしまう病気です。
肺動脈とは心臓から肺へと血液を送り出す血管です。
肺動脈の圧力が高くなると、血液を押し出す心臓に大きな負担がかかり、やがて心臓が十分に働けなくなっていきます。
心臓がうまく血液を送り出せなくなると、全身に届く血液の量が減ってしまいます。
なかでも深刻なのが、脳に届く血液が不足することです。
脳は酸素が足りなくなるとすぐに機能が低下するため、一時的に血液が行き届かなくなるだけで意識を失ってしまいます。
これが、肺高血圧症の犬に失神が起こる仕組みです。
犬の場合、お散歩中や遊んで興奮したときに失神が起こりやすい傾向があります。
体を動かすと酸素を必要としますが、心臓がその分の血液を送り切れなくなるためです。
失神は通常数秒から数十秒ほどで意識が戻りますが、肺高血圧症が原因の場合は何度も繰り返すことが多く、そのまま放置すると病気が悪化する危険性があります。
肺高血圧症による失神以外に見られる症状

犬の肺高血圧症では失神以外にもさまざまな症状が現れます。
以下のようなサインが見られた場合は、肺高血圧症を疑う必要があります。
- 運動をしたがらない、散歩中にすぐ座り込む
- 安静時にも呼吸が速い、呼吸が荒い
- 咳が出る(特に夜間や興奮時に多い)
- 舌や歯茎が青紫色になる(チアノーゼ)
- お腹が張って膨らんでくる(腹水の貯留)
- 元気や食欲が以前より低下している
これらの症状はゆっくりと進行することもあり、飼い主様が
「年のせいかな」
と見過ごしてしまうケースも少なくありません。
特に失神とチアノーゼが同時に見られる場合は、肺高血圧症の可能性が高いため、すみやかに動物病院を受診することをおすすめします。
犬が肺高血圧症で失神を起こすおもな原因
犬の肺高血圧症は、単独で起こるよりも、もともと持っている別の病気がきっかけで起こることがほとんどです。
ここでは、失神につながる肺高血圧症の代表的な原因をわかりやすくご紹介します。
僧帽弁閉鎖不全症
犬にもっとも多い心臓の病気が僧帽弁閉鎖不全症です。
僧帽弁閉鎖不全症では心臓の中にある「僧帽弁」という弁がうまく閉じなくなり、血液が逆流してしまいます。
その結果、心臓や肺に血液が溜まりやすくなり、肺の血管にかかる圧力が上がって肺高血圧症を引き起こします。
フィラリア症
フィラリア症はフィラリア(犬糸状虫)によって引き起こされる病気です。
フィラリアは心臓や肺の血管に住みつき、血液の流れを妨げることで肺高血圧症を引き起こします。
フィラリア症は予防薬を定期的に飲ませることで防げる病気ですが、もし感染してしまうと重い肺高血圧症や失神につながることがあります。
気管・気管支虚脱
気管や気管支が本来の形を保てずにつぶれてしまう病気が、気管・気管支虚脱です。
気管がつぶれると空気の通り道が狭くなり、肺に十分な酸素を届けられなくなります。
酸素が不足した状態が続くと肺の血管が縮んで圧力が上がり、肺高血圧症へと進行することがあります。
気管・気管支虚脱はポメラニアンやヨークシャー・テリアなどの小型犬に多く見られ、「ガーガー」というガチョウの鳴き声のような咳が特徴的です。
犬の肺高血圧症による失神への治療アプローチ
犬の肺高血圧症を完全に治すことは難しいのが現状です。
しかし、きちんと治療を続けることで失神の回数を減らし、犬が穏やかに過ごせる時間を長くすることができます。
ここでは肺高血圧症の治療についてみていきましょう。
基礎疾患の治療
肺高血圧症はもともとの病気がきっかけで起こることが多いため、まずはその原因となっている病気を治療することが大切です。
たとえば僧帽弁閉鎖不全症が原因であれば、心臓の働きを助ける薬や体に溜まった余分な水分を排出する利尿剤などを使って心臓の負担を軽くしていきます。
基礎疾患をしっかりコントロールすることが、肺高血圧症の悪化を防ぎ、失神を減らすことにつながります。
肺の血管を広げる薬
肺高血圧症そのものに対しては、肺の血管を広げて血圧を下げる薬(シルデナフィルなど)を使います。
肺の血管が広がると心臓にかかる負担が軽くなり、失神が起こりにくくなります。
薬の種類や量は獣医師の指示どおりに飲ませることが大切です。
酸素療法
肺高血圧症で息苦しさが目立つ場合には、酸素を吸入する「酸素療法」が効果的です。
自宅に酸素ハウス(酸素室)を置くことで、犬が楽に呼吸できる環境をつくることができます。
また、激しい運動や強い興奮は失神を引き起こすきっかけになるため、お散歩はゆっくり短めにし、日頃から穏やかに過ごせる環境を整えましょう。
犬の肺高血圧症を早期発見するためのポイント

肺高血圧症は少しずつ進行する病気で、はっきりとした症状が出た頃にはかなり進んでしまっていることも珍しくありません。
しかし、肺高血圧症を早い段階で見つけて治療を始めることで失神を防いだり、犬が元気に過ごせる時間を延ばしたりすることができます。
肺高血圧症の早期発見にもっとも役立つのは、動物病院での定期的な健康診断です。
特に心臓病を持っている犬やシニア犬は、年に1〜2回の検査をおすすめします。
それに加えて、飼い主様が普段から愛犬の様子をよく見てあげることも大切です。
「前より疲れやすくなった」
「散歩の途中で立ち止まることが増えた」
といった小さな変化が、肺高血圧症の初期サインであることがあります。
少しでも気になることがあれば、遠慮なく獣医師にご相談ください。
まとめ
犬の肺高血圧症は、失神や息苦しさなど命に関わる症状を引き起こす病気です。
しかし、早めに見つけてしっかり治療を行えば、症状の進行をゆるやかにし、愛犬との穏やかな毎日を守ることができます。
愛犬に少しでも気になる様子があれば、できるだけ早く動物病院を受診しましょう。当院では心臓の診療に力を入れており、超音波検査をはじめとした詳しい検査にも対応しています。
犬の肺高血圧症や失神でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q.肺高血圧症はどのような検査で診断するのですか?
A. 肺高血圧症の診断には、心臓超音波(エコー)検査が重要です。
心臓超音波検査で心臓の動きや血液の流れをリアルタイムで確認し、肺動脈の圧力を推定します。
その他、胸部レントゲン検査で心臓の大きさや肺の状態を評価したり、心電図で不整脈の有無を確認したりします。
Q.肺高血圧症になりやすい犬種はいますか?
A.特定の犬種だけが肺高血圧症になるわけではありませんが、原因疾患になりやすい犬種は注意が必要です。
例えば、僧帽弁閉鎖不全症はキャバリア、チワワ、などの小型犬に多く、進行して肺高血圧症を発症するケースがよく見られます。
また、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアは特発性肺線維症という原因疾患にかかりやすいとされています。
Q.肺高血圧症と診断されたら、日常生活でどんなことに気をつければよいですか?
A.心臓や肺に過度な負担をかけない生活を心がけることが大切です。
激しい運動やドッグランで走り回ることは避け、獣医師の指示に従った範囲でのんびり散歩をしましょう。
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