子宮蓄膿症とは…
「子宮内膜の嚢胞性増殖と、細菌感染による炎症がおこり、子宮腔内に膿性液が貯留した疾患」と定義されています。
簡単に言い換えると、子宮の内膜が炎症を起こし、膿がたまってしまうということです。
原因は?
不妊手術をしていない雌の猫ちゃんでは、排卵後に黄体期(黄体ホルモンが分泌される)という時期があります。黄体期の子宮は、妊娠に備えるべく精子を受け入れやすく、免疫力が弱くなるため、細菌感染がおこりやすい環境となります。基本的に猫ちゃんは交尾刺激によって、排卵される「交尾排卵動物」のため、わんちゃんと比較すると発生率自体は少なくはなりますが、最近の報告では、交尾刺激がなくても、排卵することがあることが知られており、猫ちゃんでの発生も増えている病気です。
どんな症状?
初期は無症状のことが多いため、発見が遅れることも少なくありません。わんちゃんの子宮畜膿症でよく見られる、お水をよく飲み、尿量が増えるという症状は、猫ちゃんでは9%と少ないのです。
開放性では、膣からの排膿が認められますが、子宮頚管が緊縮している閉鎖性では、陰部の周囲に異常は認めらません。
40%で食欲不振、下腹部下垂(この症状は特徴的ですが、太ったのかしら?と思われ、見過ごされる可能性もあります!)33%で脱水や元気消失など、特徴的な症状ではないため、病態が進行してから見つかることが多いように思います。
どのように診断する?
まず身体検査を行い、発熱、呼吸状態、腹囲膨満などがないかを中心に全体的な猫ちゃんの状態を検査します。そののち状態を観察しながら、血液検査と腹部超音波検査を行います。腹部超音波検査では、膀胱・胆嚢・血管以外で、子宮領域に液体の貯留像が観察できるようであれば、治療に進みます。腹水の貯留があれば、腹水の採材をし、腹膜炎所見がないかも検査します。血液検査では感染の程度や脱水の有無を判断し、治療に反映します。胸部、腹部X線検査や、血液凝固検査、細菌培養検査等も必要に応じて検査を行います。
治療法を教えて!
第一選択は、外科療法で、なるべく早期に手術を行い、病気を発症している子宮と卵巣を摘出することが大切です。ごくまれではありますが…
1.基礎疾患があるため、麻酔のリスクが高い場合
2.高齢のため、外科的な治療を選択されない場合
3.外科手術への同意が得られない場合
以上の場合には、ホルモン製剤を使用し、黄体期を退行させることで子宮頚管をゆるめ、排膿をうながします。抗生剤も2週間程度併用しながら、治療をしますが、再発の可能性もゼロではありません。
予防法は?
不妊手術を適正なタイミングで行うことです。当院では生後6か月齢以降での不妊手術をおすすめしています。手術では、卵巣から子宮頚部までを切除する全摘術を実施しているため、生涯、子宮の病気になることはありません。猫ちゃんでは、9割悪性と言われている乳腺癌の予防にもつながります。
症例紹介
【症例】6歳 未避妊雌
【主訴】今日お腹が膨れていることに気づいた
【診断】
熱はありませんでしたが、腹囲の膨満と下垂、あきらかな腹部の波動感がありました。超音波検査では、多量な液体貯留が認められましたが、腹水は認められませんでした。聴診では、不整脈が聴取されましたが、炎症に伴うものと判断しました。
血液検査では、白血球の上昇、電解質異常、軽度脱水が認められ、X線画像では、腹部臓器に圧迫され胸部が圧迫されている様子が認められました。
以上の検査結果より、子宮蓄膿症と判断しました。


【治療】
飼い主様と相談の後、外科手術摘出を選択しました。膿のたまった子宮を破らないように丁寧に摘出しました。手術自体は予定通りに終了しましたが、術後合併症による貧血の改善が乏しく、脳内血栓を疑う神経症状が認められ入院が長引いてしまいましたが、同居猫ちゃんの輸血等を行うことで、8日で退院することができました。


まとめ
猫ちゃんでは、比較的稀な病気として周知されていますが、遭遇することはあります。
不妊手術をしないことで、病気のリスクになるだけでなく、発情徴候が定期的に訪れることで、精神的にも身体的にも不安定なことが多いように思います。
手術による“肥満”リスクは知られていることですが、食事のコントロールでふせげると思います。
不妊手術は、猫ちゃんにとってメリットが大きい手術だと思っています。ご検討されている方は、是非ご相談ください!!
HALU代官山動物病院