犬の乳腺腫瘍とは?
乳腺は、通常左右一対、10個の乳腺があります。(個体差で8~12個のこともあり)
乳腺領域に少なくとも1つの触れる“しこり”として認められます。
通常、乳腺腫瘍のできる場所は乳腺近くであることが多いですが、皮下で乳腺は網の目のようにひろがっているため、乳頭より離れたところで観察されることもあります。避妊していない女の子に発生する腫瘍では最も多く、特に中~高齢(7~13歳)で発生が多いことが知られています。
一般的に、良性と悪性の割合は各々50%とされ、悪性のうち半数が転移するとも言われています。はじめは良性の腫瘤であっても、時間経過とともに悪性に転化する可能性もあり、一般的に、長期間無治療でいることはお勧めできません。
どんな犬種でなりやすい?
小型犬では、プードル、チワワ、ダックスフンド、ヨークシャー・テリア、マルチーズ、
大型犬では、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、ジャーマン・シェパード・ドックなどがあげられます。小型犬では、乳腺腫瘍の25%が悪性と診断されたのに対し、大型犬は58.5%が悪性だったと報告されています。また、遺伝性の可能性も示唆されていますが、はっきりしたことは今のところ明確になっていません。
主な症状は?
残念ながら、悪性度の高い炎症性乳癌でないかぎり、自覚症状はありません。そのため、飼い主様がよく体をさわり、チェックしてくださることが、早期発見につながります。
どうやって診断するの?
皮膚には、良性腫瘍や肥満細胞腫等その他の腫瘍も形成されるため、乳腺腫を疑うしこりをみつけたら、まず、それが乳腺由来の腫瘍なのか針生検で調べます。(針生検では良性・悪性までの判断はできないため、外科手術後には組織を病理検査に提出します)
また、それぞれの乳腺の所属するリンパ節:第1~2乳腺は胸骨および腋窩リンパ節、第3~4乳腺では腋窩および鼠径リンパ節、第5乳腺では内腸骨および鼠径リンパ節に対しリンパ管の走行が認められているため、各々のリンパ節に対して転移の有無に関する評価も必要です。また、遠隔転移と考えられる肺転移の確認するために、Xray検査も実施します。
以上の検査を実施し、予後を予測するために、以下の表に従って、乳腺腫瘍のステージを決定します。
臨床ステージ | 腫瘍の大きさ(T) | 領域リンパ節の転移(N) | 遠隔転移(M) |
---|---|---|---|
Ⅰ | T₁:<3㎝ | N₀:転移なし | M₀:転移なし |
Ⅱ | T₂:3~5㎝ | N₀:転移なし | M₀:転移なし |
Ⅲ | T₃:>5㎝ | N₀:転移なし | M₀:転移なし |
Ⅳ | すべてのT | N₁:転移あり | M₀:転移なし |
Ⅴ | すべてのT | すべてのN | M₁:転移あり |
どんな治療方法?
外科療法:第1選択は外科的切除です。悪性度が高いほど、腫瘍を取りきるために、乳腺を全摘する手術を行うこともありますが、わんちゃんは猫ちゃんほどは悪性度が高くない場合も多いため、わんちゃんの切除の範囲に関しては、その子の病態によって異なります。臨床ステージや存在腫瘍の個数・位置、また年齢や麻酔リスク・皮膚の状況などを考慮して、飼い主様と相談して決定していくことが多く、腫瘍のみの切除、腫瘍を含む乳腺のみの切除、領域乳腺切除、片側全切除、両側全切除などがあげられます。
化学療法:残念ながら、現時点で、犬の乳腺腫瘍に対する有効な化学療法はありません。そのため、乳腺癌という診断ののち、術後に補助化学療法をするか否かに関してはプロトコールも確立していないため、患者様との相談が必要となります。
乳腺腫と診断されたら…
これまでの報告によると、ステージ4以上のリンパ節転移が認められた場合には、平均生存期間が8~17か月、ステージ1~3までのリンパ節転移がない場合の平均生存期間は19~24か月以上とされています。ステージ3以下の時点で、外科治療することにより良好な予後が期待できるといえます。腫瘍の大きさが5㎝を超える場合や、6か月以上無治療で経過観察した場合には、リンパ節転移の可能性が高くなるという報告もあるため、胸にしこりを見つけた際には、早期に病院に来院されることをお勧めします。
症例紹介
【症例】10歳 雌 トイプードル
【主訴】お腹のところに1年前からしこりがあり、徐々に大きくなってきた
【診断】よく触ってみると、周囲にも小さい腫瘤が多発しており、8個すべてに対して針生検を実施し、細胞診検査した結果すべてのしこりが乳腺由来であることが判明しました。
肺転移はありませんでしたが、リンパ節転移を疑う所見があり、ステージⅣと判断しました。
【治療】しこりの大きさ、分布、リンパ節の腫脹等を加味して、今回は不妊手術+片側全摘術+反対側は部分切除としました。術後は1週間程度で、元気に退院されました。
【病理】摘出した臓器の病理検査結果は、1か所で乳腺癌が認められ、腫れていたリンパ節には、転移性病変が形成されていました。
乳腺癌の結果でしたが、術後抗がん剤については、希望なく実施しませんでした。
病気になってからでは、傷口が大きくなりますし、入院期間も長く、経済的にも大きな負担を負わなくてはなりません。妊娠の予定がないならば、将来的な病気の予防として、適切なタイミングでの不妊手術の実施をお勧めいたします。初回発情前に不妊手術を実施することで、その後の発生率が0.05%まで低下といわれていることから、当院では6か月ごろを目安に手術時期を提案しています。
また、乳腺腫になってしまったとしても、腫瘍専門診療の診察日を設けています。
専門医と連携し、その子と、そのご家族にあった最善の治療をご提案できるよう努めています。お気軽にご相談ください。
渋谷、恵比寿、代官山の動物病院(年中無休、年末年始も診察している動物病院)
HALU代官山動物病院
03-6712-7299