呼吸が苦しい

心臓病の犬に麻酔はかけられる?|犬の心臓病と麻酔の関係について詳しく解説

犬が手術や治療のために麻酔をかける必要があると聞くと、不安な気持ちになる飼い主様は多いのではないでしょうか。
特に心臓病の持病がある犬の場合は
「心臓病があるのに、麻酔をかけても大丈夫なの?」
と心配になる方もいると思います。

この記事では心臓病の犬が麻酔を受ける際の注意点などを詳しく解説します。
心臓病の犬の飼い主様はぜひ最後までお読みいただき、犬の健康を守る判断にお役立てください。

心臓病の犬は麻酔をかけても大丈夫?

心臓病の犬に麻酔をかけることは絶対にダメというわけではありません。
ただし、健康な犬に比べて麻酔のリスクが高く、より慎重な判断と管理が必要です。
心臓病を持つ犬では、心臓のポンプ機能が低下しているため、麻酔薬による血圧の低下や心拍の変化の影響を受けやすくなっています。

麻酔薬は血管を広げたり、心拍数を抑えたりする作用があるため、血流が不足して臓器への酸素供給が足りなくなる危険があります。
特に、重度の僧帽弁閉鎖不全症や拡張型心筋症などを持つ犬では命に関わることもあるので注意が必要です。
心臓病の犬に麻酔をかける場合は事前に十分な検査を行い、どの程度リスクがあるのか、どんな対策ができるのかをチェックすることが大切です。

心臓病の犬でも麻酔を行うケースとは

ヨークシャーテリアの診察を行う獣医師

心臓病の犬であっても病気の治療や健康維持のために麻酔が必要となる場面は少なくありません。
ここでは、具体的にどのようなケースで麻酔が必要になるのかを解説します。

歯科処置(歯石除去・抜歯)

犬の麻酔が必要な処置で多いのが歯科処置です。
特に高齢の小型犬では、心臓病と重度の歯周病を併発していることが少なくありません。
重度の歯周病は口腔内の細菌が血液を通じて心臓弁に感染し、心内膜炎を引き起こす危険があります。
歯科処置は心臓病の悪化を防ぐためにも非常に重要です。

体表や体内の腫瘍の切除

体にできた腫瘍が生活の質(QOL)を著しく下げている場合、切除のために麻酔を検討します。
例えば、足にできた腫瘍が大きくなり歩行の妨げになっていたり、気にして舐め壊しているなどのケースです。
また、乳腺腫瘍や脾臓の腫瘍など、悪性の可能性があり、放置すれば転移して命に関わる場合も手術が必要となります。

緊急を要する外科手術

犬は高齢になると心臓病以外の病気も多く発生します。
子宮蓄膿症などは手術をしないと命に関わるケースも多いです。
これらの状況では、麻酔のリスクを考慮しつつも、緊急手術に踏み切る必要があります。

心臓病の犬に麻酔をかけるときの検査

心臓病の犬に麻酔をかける際はリスクをできる限り減らし、安全に処置や手術を進めるために事前の検査が非常に重要です。
動物病院で実際に行われる検査は以下の通りです。

心エコー(心臓超音波)検査

心臓病の犬の麻酔前検査において、心エコー検査はもっとも重要な検査の一つです。
心エコー検査は心臓病の重症度や心機能の評価に重要な検査です。
心臓病の重症度を評価することで麻酔のリスクがどの程度なのかを確認することができます。

心電図検査

心電図検査は心臓の電気的な活動を記録し、不整脈を調べる検査です。
不整脈の種類や頻度を知ることで、麻酔中に突然心拍が乱れるリスクが高いかどうかを判断します。
不整脈が見つかった場合、麻酔薬の種類や投与方法を工夫することがあります。

胸部レントゲン検査

胸部レントゲン検査は心臓の大きさや肺の状態を調べるための検査です。
心拡大や肺に水がたまる肺水腫の有無を確認することで、麻酔リスクを評価できます。
心臓が大きくなっていたり、肺に問題がある場合は慎重な麻酔管理が重要です。

血液検査

全身状態を確認するために、一般的な血液検査も欠かせません。
血液検査では肝臓や腎臓の機能などを詳しく調べます。
内臓の働きが低下していると、麻酔薬の代謝や排泄機能に影響が出るため、薬剤の選択や量の調節に役立ちます。

犬が麻酔を安全に受けるために飼い主ができる準備は?

シーズーと楽しそうにスキンシップをとる飼い主

心臓病の犬が麻酔を安全に受けるためには、飼い主様の準備と協力がとても大切です。
普段から服用している心臓薬や利尿薬などの内服薬の服用については必ず獣医師に確認しましょう。
手術当日に薬を飲ませるべきか、一時的に中止するかは病気の状態や麻酔内容によって異なります。
自己判断で止めてしまうと、心臓に負担がかかることがあるため注意が必要です。

また、麻酔前日は体調の変化をよく観察し、

  • 咳が増えた
  • 元気がない
  • 呼吸が早い
  • 食欲が落ちた

などの異変があれば、必ず獣医師に伝えましょう。
指示された絶食・絶水時間を守ることも、麻酔中の誤嚥を防ぐうえで欠かせません。

まとめ

心臓病の犬に麻酔をかける際には、通常よりも慎重な判断と高度な管理が求められます。
事前の検査で心臓の状態を正確に評価し、適切な麻酔法を選ぶことが重要です。
飼い主様は、不安な点を遠慮なく相談し、獣医師と二人三脚で最善の方法を選びましょう。

当院では心臓病の犬の治療に力を入れています。
心臓病の犬に麻酔をかけるのに不安をお持ちの飼い主様は気軽にご相談ください。

よくある質問

Q.高齢で心臓病もあるのですが、麻酔に耐えられますか?

A.年齢だけで麻酔の可否が決まるわけではありません。
大切なのは年齢よりも、事前の検査で心臓や腎臓などの機能を正確に評価することです。
高齢で心臓病を持つ子の場合、より慎重な麻酔計画と厳重なモニタリングが不可欠です。個々の状態に合わせて最善の方法をご提案しますので、まずはご相談ください。

Q.麻酔後に心臓病の犬が気をつけるべきことはありますか? 

A: 麻酔後は数日間、呼吸状態や咳の有無などを注意深く観察しましょう。
特に突然の呼吸困難や元気消失が見られた場合はすぐに動物病院へ連絡してください。
また、獣医師から再診や投薬の指示がある場合は必ず守りましょう。

Q.心臓病の犬は麻酔をかけずに歯石を取ることはできませんか?

A.無麻酔での歯石除去は、表面の汚れしか取れず、歯周病の根本原因である歯周ポケット内の歯石や細菌を取り除くことができません。
また、処置中の痛みや恐怖は犬に大きなストレスを与え、かえって心臓に負担をかける危険性があります。
安全かつ確実に治療するためには、全身麻酔下で痛みを取り除き、口の中を隅々まで処置することが重要です。

 
 

担当獣医師

内科・循環器科・軟部外科

游 (ユウ, Yu)HALU代官山動物病院 院長

English/Chinese Speaking Veterinarian
「たとえ病気になったとしてもその中で一番幸せに暮らせるように」
患者さん、家族、獣医師間の密なコミュニケーションを大切にしています。

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