突然ですが、皆様の愛犬・愛猫に次のような症状はありませんか?
慢性的に便がゆるい、あるいは下痢が続いている。
便検査をしても異常ないと言われている。
治療をすると一時的によくなるが止めると再発する、あるいはよくならない。
食欲はあるのに痩せてきた。
犬や猫が下痢をする原因には様々なことが考えられます。
・感染性(細菌・ウイルス・寄生虫など)・食事反応性・腫瘍性(ポリープなど良性のものも含む)・抗菌剤反応性・吸収不良性・腸リンパ管拡張症
それぞれ病気の結果として現れる症状の中に下痢を含むということは共通していますが、原因が異なるため検査方法や治療方法、また治療反応はさまざまです。適切に症状を抑えるあるいは緩和するためには、それぞれの原因にあった治療が必要です。
中でも今回は、適切な治療を行わなければなかなか治らず下痢が続いてしまうような慢性的な腸炎、炎症性腸症/IBDについてご紹介します。
【炎症性腸症/IBDとは】
IBD:Inflammatory bowel disease の略で原因が特定されない慢性非特異性の腸炎の総称です。人においてのIBDと犬や猫においてのIBDは少し異なっており、「胃、小腸および大腸の粘膜や粘膜下織へ炎症性細胞のび慢性浸潤を特徴とする」慢性消化器疾患と定義されます。
【原因・特徴】
IBDの原因は明確には特定されていませんが、遺伝的な素因や食事や環境、腸内細菌叢、消化管粘膜の機能変化、免疫システムの異常などが関与しているといわれています。
発症年齢は犬猫ともに6歳前後が多いですが、もっと若齢でも発症します。
おもな症状は、慢性的な嘔吐と下痢、食欲不振や体重減少が一般的です。症状が重度の場合は消化管からタンパク成分が漏出してしまう低タンパク血症やそれに伴う胸水・腹水の貯留も認められることがあります。またまれに皮膚のかゆみを伴うことが報告されています。
診断基準は以下の通りですが、基本的には除外診断と言い、ほかの疾患を一つずつ除外することが必要です。
① 慢性消化器症状:嘔吐(時折~頻回)や下痢(やや軟便~泥状・水様下痢)が続く
② 消化管粘膜に炎症を認める(組織学検査など)
③ 慢性腸炎を引き起こすようなそのほかの原因疾患があてはまらない(感染やリンパ管拡張症や腫瘍など)
④ 食事療法や抗菌剤の投与、対症療法などによる治療反応が悪い
⑤ 消炎剤や免疫抑制剤によって症状の改善がみられる
こうした項目をチェックしていき当てはまるようならIBDの可能性が疑われます。
【治療】
IBDでは様々なものに対して免疫反応が過剰になっていることが多いため、食事療法や抗菌薬・消炎剤の投与、場合によっては免疫抑制剤などによる治療が必要となります。
- 食事療法:食べ物に含まれるタンパク質などに対して免疫反応が示される場合を考慮し、低アレルギー食が推奨されています。ただし消化管の働きが低下しているため、中でも低脂肪で消化によいフードを選択します。
- 抗菌薬:腸内細菌に対して免疫反応を示すことを考慮し、3~4週間ほど投与することがあります。
- 消炎剤:腸炎がひどく低タンパク血症も認められる場合や、食事・抗菌薬の治療反応性が乏しい場合に消炎剤を使用します。症状が改善されるようなら、薬を少しずつ減らしていく必要があります。
- 免疫抑制剤:消炎剤による効果が不十分、あるいは消炎剤による副作用が見られる場合に免疫抑制剤の併用・切り替えを検討していきます。ただし免疫抑制剤による副作用に注意しながら投与することが大切です。
【鑑別診断】
すでに記述したように、IBDを疑う際には消化器症状を表すそのほかの疾患を除外していく必要があります。IBDに至るまでに除外が必要な疾患についていくつか触れておきましょう。
- 感染性疾患:寄生虫や細菌・ウイルスによる消化器症状を除外するために、糞便検査を実施し、寄生虫や悪い細菌が増えていないかを検査します。また抗菌薬や駆虫薬の投与で症状の改善の有無を評価し、あるようなら感染性の可能性が疑われます。
- 膵炎:膵臓は種々の消化酵素を分泌しており、膵臓に炎症が起こることで重度の消化器症状を示すことがあります。以前急性膵炎のコラムでもご紹介しましたが、膵炎の多くは腹痛を伴う消化器症状を示し、重症化すると命にかかわる怖い病気です。
- 内分泌疾患:甲状腺や副腎といった体にとって重要なホルモンを放出する臓器で異常が生じると、ホルモンの過剰あるいは不足が原因となり、消化管の機能に影響を与えることがあります。画像検査やホルモンの検査をすることで内分泌機能に異常がないかを調べることが必要です。
- 腸リンパ管拡張症やタンパク漏出性腸炎:消化管粘膜にあるリンパ管(食物中の脂肪滴や分子の大きいタンパクを吸収する働き)が拡張することで脂肪やタンパクが吸収されずに、体外へ漏出してしまう病気です。重度の場合は低タンパク血症を引き起こし、下痢に加えて腹水などが見られることがあります。血液検査や超音波検査に加えて、内視鏡検査などによる診断が必要ですが、低脂肪食や消炎剤などによる治療反応で判断することもあります。
このように動物が下痢をする原因は実に様々です。今回紹介したもの以外にも下痢につながる病気はあります。炎症性腸疾患・IBDは様々な疾患を除外した上で、診断をつけていく必要がある病気です。日常的によく遭遇する症状ですが、実は原因を特定することが意外と難しい症状の一つかもしれません。
ひどくはないけど何となく便がいつもゆるいかも、と思われる方がいらっしゃいましたら、一緒に原因を探っていけたらと思います。
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