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【糖尿病】犬の糖尿病とは?〜飼い主様と共に向き合う病気〜

糖尿病は私たち人間において頻繁に耳にする疾患であり、世界的には成人の11人に1人が罹患していると言われております。

人では約90%がⅡ型の糖尿病で多くの因子(遺伝的な素因も含めて)によって引き起こされますが、肥満の中高年齢で発症し、生活習慣の改善が必要、というイメージを持つことが多いかと思われます。

そのため、犬における糖尿病でも同様のイメージを持たれるかもしれませんが、犬においてそれは共通点もありますが原因など相違点もあるために、同様ではないこと、また治療方針も異なることをご理解していただく必要があります。

糖尿病とは?


図1:犬の膵臓の模式図

糖尿病とは、膵臓(図1)と呼ばれる臓器がコントロールするホルモンであるインスリンの絶対的(量が必要量を満たしていない)あるいは相対的(量が今ままでより少ない、あるいは多く必要になる)な不足により本来下がるはずの血糖値が高い状態が続いてしまうことで、身体の代謝に影響を及ぼす疾患です。

代謝異常の程度などによっては幅広い症状を呈し、命に関わるケトアシドーシスと言われる状態から、眼が急に白くなってくる白内障などの合併症も併発することもあり、それらの予防のためにも血糖値のコントロールを食餌やインスリン注射などで行う、という病気になります。

よく見られる犬種では地域や時代によって差はありますが、現代の日本ではトイ犬種やテリア犬種、マルチーズなどで報告が多く、年齢的には全年齢で起こり得ますが、8〜9歳くらいがよく見受けられ、また発情や妊娠の兼ね合いで雌では雄より2倍ほどなりやすいとされています。

糖尿病の原因は?

犬の糖尿病の病因としては2パターン挙げられ、膵臓のβ細胞(インスリンを分泌する細胞)の減少あるいは破壊がある場合と、何らかの理由でインスリンに対して抵抗性をもつ場合になります。

前者は人のⅠ型糖尿病と似ており、自己免疫によるβ細胞の破壊や膵臓疾患(e.g.膵炎)が原因とされるものもありますが、原因不明なことも多く特発性(急に発生するが原因がわからない)も多数見受けられ、生まれつきや幼い時からのものも見受けられます。

この場合はインスリンが足りなくなるために、皮下注射によるインスリンの治療が必要となります。

後者であるインスリンが効きにくくなる病因とは、発情後や妊娠している場合やクッシング症候群やグルカゴノーマ(稀な腫瘍、高血糖を引き起こしインスリン抵抗性を呈する)など他のホルモン性の疾患に罹患している場合、もともとステロイドや性ホルモン製剤を常用していて前記した状態に医原性(治療や薬の一環として)になってしまう場合などが挙げられます。

これが原因の場合は、原因を取り除いてあげればインスリンに対して正常に反応する場合もあれば、抵抗性が残ってしまう場合もあり、この場合は同様にインスリンを注射する治療が必要となります。

前期した通り、人間とは異なり肥満が直接的な原因となることは基本的にはありません。ですが危険因子となりうることは報告されていますので、肥満やご飯ではないおやつの多食には気をつけましょう。(猫では犬とは異なり肥満が主原因になりますので気をつけましょう!)

糖尿病の症状は?

犬の糖尿病のほとんどでは多飲多尿(水を多量に飲み、排尿も多量にする)、多食(ご飯を多く欲しがる)なのに体重が減少していくなどが典型的な初期症状になります。

図2:糖尿病に罹患した症例の白内障

上記に加えて前記した病因によって症状が異なり、膵炎症状(発熱、食欲不振、嘔吐、下痢など)やクッシング症状(腹囲膨満、皮膚炎、脱毛など)、発情に伴う症状(乳腺腫脹、発情行動など)なども見受けられます。

また無治療の場合あるいは糖尿病のコントロールが良好でも長期的に治療している場合、白内障(図2)がよく見られます。これらの治療には手術しかないために、早期発見し血糖値コントロールを可能な限り行い、進行を遅らせることが大切になります。

また急性で緊急的な処置が必要な併発症として、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)と高浸透圧高血糖症候群(HHS:犬では稀、慢性腎臓病などの場合は注意)が挙げられます。

これらはインスリン不足に起因しており、高血糖になることで尿中の糖排泄が増え(尿は血液から作られるため、血中に糖の量が増えると必然的に尿中に増える)、これが浸透圧により身体の中の水分を尿中に引っ張っていってしまうため、尿量が増えて体から水が失われ脱水を引き起こします。

また同様にインスリン不足により、インスリンの主な役割である全身の細胞のエネルギー源である糖が細胞内に取り込まれなくなってしまいます。そのため細胞は他のエネルギー源を探し、中性脂肪からエネルギーを抽出しますが、副産物として産まれてしまうケトン体が身体の平衡状態を酸性に傾けてしまい、命に関わる病態(代謝性アシドーシス)を作ります。

この脱水状態と代謝性アシドーシスは無治療のままにしておくとショック状態(血圧を維持できなくなってしまう)で命を落としてしまいますので、急いで輸液療法を行うとともに乱れてしまったミネラルバランスの補正が必要となります。

糖尿病の診断は?


図3:糖尿病症例の膵炎併発所見

犬の糖尿病の診断には①特徴的な臨床症状(多飲多尿・体重減少など)、②継続的に空腹時の血糖値が高い(180mg/dL以上)、③尿糖が陽性の三つが有用となります。

一見上記の症状以外は異常がないことが多く、膵炎等の併発がなければ一見元気でご飯も食べるために身体検査のみでは見落とされやすい疾患になります。

そのため血液検査で空腹時の血糖値のモニタリングや尿検査(尿路感染を併発していることもあるために尿糖の検査だけでなく微生物検査も)、画像検査による膵炎やクッシング症候群、卵巣疾患などの併発・原因疾患がないかの精査を行うことも重要となります。

糖尿病の治療は?

糖尿病の根本的な治療は原因疾患がない場合は基本的には困難となり、長期間の持続的な治療を行う必要性があります。

そのため治療の目標としては愛犬とそのご家族の生活の質が改善するようにすることにあります。具体的には明らかな症状である多飲多尿や体重減少を改善させてあげるとともに、白内障などの合併症を遅らせるあるいは予防する、それに加えて命に関わる病態である糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)や低血糖状態にならないようにすることが重要となります。

図4:糖尿病用の処方食

原因疾患がある場合はそちらの治療を行うことも重要であり、また雌犬で未避妊の場合は発情中で特に血糖値のコントロールが著しく困難になるため、避妊手術を行うことが重要になります。

治療手段の主なものとしては食餌コントロール及びインスリン注射となり、また骨格筋量の維持のため(インスリンの感受性が安定するため)に適度で一定の運動が補助的に行われることが推奨されます。

糖尿病治療において基本的となることは一定の時刻に一定の量の食餌を与え、一定の時間にインスリンを打つことになります。インスリン注射が基本的には1日2回になるために、食餌も1日2回与えることが大切で、できれば時間のずれは規定時間の前後2時間以内にすることが推奨されます。

与える量としては1日エネルギー量(DER)を計算して基本量とし、血糖値の値や体重変化に伴い徐々に調整していき、また食間に血糖値が下がらない限り間食はない方が好ましいですが、どうしても必要な場合は低糖質のもの(ささみや特定の種類の野菜など)が推奨されます。

また食餌の種類としては食後の一過性の高血糖を抑えてくれる食物繊維が多く含まれているもの、できれば糖尿病用処方食(図4)が望ましいですが、処方食を食べてくれない子やもともと何らかの要因で別の療法食を食べている子などでは、今まで通りの食餌でコントロールすることも可能ですが、半生フードは炭水化物が多く含まれるためにあまり推奨されません。

糖尿病に罹患した犬のほとんどは膵臓におけるインスリンを作り分泌する能力を失っているために、インスリンを体内に入れてあげる必要があります。

今のところ有効な内服薬が存在していないため、インスリンは注射を使用して投薬する必要があり、これにはとても細い針と注射器を使用して、なるべく動物負担が少ないものを利用します。

インスリン療法はまず適切なインスリンの種類及び投薬時間、それに適した食事量を調整する必要があります。


図5:良好な血糖曲線の例(参考文献:犬と猫の内分泌疾患ハンドブック 松木直章先生著)

そのため、時間経過ごとにどのように血糖値が推移するかを追跡する必要があり、この血糖値の増減を時間経過ごとにプロットしたものを血糖曲線と言います(図5)。


図6-1:アルファトラック2
(ゾエティス・ジャパン)
図6-2:FreeStyleリブレとその装着例
(アボットジャパン)

この血糖曲線を測定しながら、最適なインスリン量や種類、食事時間を調整するのですが、これに際して持続的な血糖値測定が必要となります。この血糖値測定には様々な測定器が販売されており、1滴の血液で検査できるようなもの(図6-1)から体に直接装着して持続的な血糖値測定が可能となるもの(図6-2)も存在しており、当院でも導入期には使用して動物に負担の少ない検査を実施しております。

インスリンの種類・使用量が決まればご自宅での治療になり、食餌量やインスリンを一定に保ちつつ、1〜2週間ごとに血液検査や尿検査を定期的に行いモニタリングを行います。

自宅での血糖コントロールがうまくいけば、前述した症状(多飲多尿や体重減少)などは落ちついてきますが、ご自宅で少しでも症状の再燃が見られるようであればまた再度調整が必要になる場合があるため、再度血糖曲線の取り直しが必要となります。

糖尿病の予後転機は?

糖尿病はもしある場合は基礎疾患・併発疾患の治療をしっかり行い、血糖コントロールが良好でDKAあるいは低血糖にならない場合は、いつも通り元気に過ごせることが可能な病気になります。

ですが前述した通り、ご自宅での管理や治療が必須となり、継続的な治療が必要であるため、ご家族全員のご協力が必要となります。

当院では愛犬はもちろん、そのご家族である飼い主様にも寄り添いながら、治療相談させていただきますので、お気軽にご相談ください。

愛犬の尿量が最近多いかも?ご飯食べているはずなのに痩せてきたかも?というような症状が見られましたら、一度ご来院してご相談ください。

早期発見、早期治療をしてあげて、愛犬の健康寿命を伸ばしてあげましょう。

HALU動物病院
TEL:03-6712-7299
E-Mail:info@halu.vet

担当獣医師

内科・循環器科・軟部外科

游 (ユウ)HALU動物病院 院長

「たとえ病気になったとしてもその中で一番幸せに暮らせるように」
患者さん、家族、獣医師間の密なコミュニケーションを大切にしています。

内科・眼科

宮本 (ミヤモト)

動物たちからたくさんのことを感じ取り、からだへの負担をできる限り少なくすること、ご家族さまとのコミュニケーションの中で治療方針をご一緒に考えていくことを大切にしています。

内科・画像診断科

岩木 (イワキ)

多くの選択肢をわかりやすくオーナー様に提供でき、大切な家族の一員である子たちにとって最適な治療計画を一緒に見つけられる存在であるために、寄り添える獣医師を目指しています。

内科・脳神経科

浅田 (アサダ)獣医学博士

てんかんを中心とした神経疾患とその治療について研究をしました。現在も研究生として大学院および大学病院において研修を行っております。

内科・鍼治療

永田 (ナガタ)

病気と向き合う中でどうしたら現状を良くしていけるのか、プラスになりそうな 事をひとつひとつ考えながら、より良い時間を過ごせるようなお手伝いができたらと思っています。 些細なことでも、気軽にご相談ください。

循環器科・内科・軟部外科

湯沢 (ユザワ)

動物は、家族にとってかけがえのない存在です。 愛おしくもたくましい彼らの人生が、長く幸せで楽しい時間であるためのサポートをすること!をモットーにしています。

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