足が痛い

【前十字靭帯断裂】前十字靭帯断裂の手術 〜足を痛そうにしている〜

私たち人間も含め、動物の膝関節の中には【前十字靭帯】という靭帯があり、膝の運動に重要な役割を果たしています。

今回はこの前十字靭帯が損傷してしまう疾患と、その治療法について紹介します。

前十字靭帯損傷・断裂

【前十字靭帯】…大腿骨と脛骨を安定させる靭帯で、動物の運動に重要な靭帯です。

前十字靭帯の主な役割は、大腿骨に対して脛骨が前に出すぎないようにすること、脛骨が内旋しすぎないようにすること、膝関節が過剰に伸びないようにすることです。

この前十字靭帯が何らかの原因で損傷・断裂すると、歩行が難しくなったり、周囲に炎症が起き痛みが起きたりします。この損傷は進行性で、一度損傷した前十字靭帯は治癒しないといわれています。

前十字靭帯の損傷や断裂の原因は特定されていませんが、加齢によって弱くなった靭帯に日常生活で負荷がかかると損傷し断裂するといわれています。また、生まれつき膝蓋骨内方脱臼が存在すると、前十字靭帯に負荷がかかりやすく、断裂が起こりやすいともいわれています。

診断

診断には

  • 跛行の様子
  • 座った時に足を横に投げ出すように座る姿勢が見られること
  • 膝関節を触った時に痛みがあること
  • 触診で膝関節に不安定が認められること
  • レントゲンを撮り、関節炎や膝の不安定に伴う所見が見られること

などがあげられます。

正常な膝関節のレントゲン(左)と、前十字靭帯が断裂しているレントゲン(右)とを比較します。

右のレントゲンでは脛骨が大腿骨に対して前の方に出ているのがわかります。

治療

靭帯は自然治癒しないため、治療は外科手術が第一選択になります。

当院で主に行っている手術は

  • 脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)
  • 関節外法(FLO法)

です。

FLO法は断裂してしまった靭帯の代わりとなるようなワイヤーを、膝関節の外側に設置して関節を安定させる手術です。費用は抑えられますが、手術後の安静期間が長いことや、時間とともにワイヤーが緩んでくるリスクが考えられます。

TPLO法は脛骨に切れ込み入れて回転させ、脛骨が大腿骨と水平に設置できるようにする手術です。膝関節に負荷がかかったときに脛骨が前に滑り出ることを防ぎます。金属プレートとスクリューを使って骨を固定するので、ワイヤーに比べ緩んでくることはほとんどありません。

当院では、術後の経過を考え、TPLO法を主に行います。

また、前述したとおり、膝蓋骨内方脱臼がある症例ですと、そのことで前十字靭帯へ負荷がかかるので、前十字靭帯断裂に対する手術と同時に膝蓋骨脱臼の整復手術を行うこともよくあります。どのような手術方法を選択するかは、専門医による診断のうえでオーナー様とよく相談していきます。

実際の手術の様子

ここからは、実際に前十字靭帯断裂に対してTPLO法で手術を行った症例を紹介していきます。

11才のトイプードルが左足を気にしている、と整形専門外来にやってきました。触診やレントゲンの検査を実施したところ、左足の膝関節が不安定で、脛骨が大腿骨に対して前に出ています。

また、膝蓋骨は脱臼を起こしていました。

加えて、この症例は以前に他院で右足のTPLO手術をしていましたが、その時に入れた金属プレートを本人が気にしているとの事でした。

これらのことから、左足は膝蓋骨の内方脱臼と前十字靭帯断裂に対する手術を、右足は金属のプレートを抜去する手術を行うことになりました。

また、右足に関しても、前十字靭帯の断裂が解決されているわけではないので、プレートを抜去してから1か月後に再度手術を行い、プレートを設置しなおしました。

実際の手術の様子

手術の準備ができたら、まずは膝蓋骨脱臼の様子を確認します。多くの症例が、膝蓋骨の軟骨がすり減っていたり、膝蓋骨が乗っている部分の溝が浅かったりします。

その次に膝関節をあけて中の前十字靭帯の様子を確認します。実際に目で見て、どの程度損傷しているのかを確かめます。

この症例は、両足とも

前十字靭帯が完全に断裂していました。

膝蓋骨が乗っている溝の部分を深くする処置を行った後に、TPLO法を実施していきます。

脛骨の、大腿骨と設置する部分を円形の電動のこぎりで切断し

適切な角度を回転させ

金属のプレートとスクリューで固定します

手術前後でレントゲンを比較すると、脛骨の位置が正常の位置へ変わっているのがわかります。

1か月後の右足の再手術も、問題なく終了しました。

術後の経過

手術後は、5~7日間入院をし、二週間後に抜糸をします。一か月ごとにレントゲンを撮り、本人の症状や、骨の状態、金属のプレートやスクリューが問題ないことを確認します。

また、当院に所属するリハビリの専門医と連携し、術後の生活の質をスムーズに改善できるようレーザー治療などのリハビリテーションを開始します。

今回手術したわんちゃんは、先日術後の検診にいらっしゃいましたが、両足とも問題なく使えており、膝関節の安定性も良好でした。

今回ご紹介した前十字靭帯断裂の他にも、多くの整形学的な疾患によって、わんちゃん・ねこちゃんが痛みを感じ、普段の生活ができなくなってしまうことがあります。

当院では整形外科の専門医も行っておりますので、気になる症状がある方はお早めにご相談ください。

渋谷、恵比寿、代官山の動物病院(年中無休、年末年始も診察している動物病院)
HALU代官山動物病院
03-6712-7299
info@halu.vet

担当獣医師

整形外科

安川 (ヤスカワ)獣医学博士

言葉を発することができない彼らが示すサインを的確に見極め、本当に手術が必要な場合に最高水準の治療をしてあげられるよう外科技術を研鑽してきました。

関連記事