歩けない

【椎間板ヘルニア】犬の椎間板ヘルニア ~診断から手術まで~(当院での手術症例の紹介)

椎間板ヘルニアとは?

椎間板ヘルニアはわんちゃんにもよく認められる疾患です。
脊椎(背骨)の椎体間に存在する椎間板物質が正常な位置から逸脱する(はみ出る)ことで、脊髄神経を圧迫し痛みや感覚麻痺などの症状が生じます。

椎間板ヘルニアには好発品種や好発部位があり、椎間板物質の逸脱の仕方によってもタイプ分けがなされます。
まず、椎間板は頚椎(首の骨)の一部と仙椎を除く脊椎の椎体間に存在し、椎体と椎体の結合に関与しています。椎間板が存在することで脊柱に柔軟性が生まれるほか、脊椎にかかる衝撃を吸収する役割も担っています。

椎間板は層構造をしており、外側は丈夫な繊維構造の線維輪、その内側はゼラチン状の構造物である髄核で形成されています。また、線維輪には痛覚の繊維が分布しています。

ただし椎間板は加齢とともに変性し、線維輪の繊維は弱くなり髄核の水分量は減少して乾燥していきます。この変化により椎間板が弱くなることが椎間板ヘルニア(椎間板物質の逸脱)の大きな原因となります。

“加齢に伴う変性”であれば高齢犬でのヘルニアの発生が多いと思われるかもしれませんが、椎間板ヘルニアは高齢犬の他に3歳程度の若い犬でも多く発生します。これは、“軟骨異栄養性犬種”というタイプの犬(ダックスフンド、ペキニーズ、フレンチブルドッグ、ウェルシュコーギー、ビーグルなど)では椎間板変性が若齢のうちから進行する為です。軟骨異栄養性犬種以外の犬では、高齢になってからヘルニアが発生することが多いです。

軟骨異栄養性犬種とそうでない犬種では椎間板ヘルニアが発生しやすい時期が異なる他、椎間板物質の飛び出し方にも違いが認められます。

軟骨異栄養性犬種では椎間板中心部の髄核が線維輪を突き抜けて脊柱管内部(脊髄の存在する空間)に噴出するような椎間板脱出を起こすことが多く、これをハンセンⅠ型と呼びます。

これに対して高齢犬で生じる椎間板ヘルニアは線維輪の変性、障害により椎間板が脊柱管内に隆起した状態であることが多く、ハンセンⅡ型と呼ばれます。

続いて、椎間板ヘルニアの症状と診断法、治療法についてお話しします。

椎間板ヘルニアの主な症状

椎間板ヘルニアの主な症状は、逸脱した椎間板物質が脊髄を圧迫、障害することによる生じる疼痛症状と感覚低下(麻痺)です。

疼痛の部位と神経障害の範囲や痛みの程度は様々で、椎間板ヘルニアの生じた部位や神経圧迫の状態により差が出ます。例えば頚部の椎間板ヘルニア生じた場合、頚部の疼痛により首が動かせず上目遣いになったり四肢全ての麻痺が生じ歩行困難となる可能性があります。

胸部や腰部の椎間板ヘルニアの場合、背中を丸めて痛がったり後肢の麻痺が生じたり排尿困難が生じる場合もあります。

椎間板ヘルニアの診断

椎間板ヘルニアを診断するには、まず疼痛部位や神経障害の症状から大まかな病変部位を判断します。

神経症状を確認する際、神経障害の程度(麻痺が生じていた場合痛覚が残っているのか)を判断することで椎間板ヘルニアの重症度を分類し治療選択の判断材料とします。
次に正確な病変部位と脊髄の圧迫の程度、別の脊髄病変との鑑別を行い、診断を確定するためには画像検査が必要となります。レントゲン検査でも椎間板ヘルニアを診断できる場合がありますが、脊髄実質の圧迫を評価するにはMRI検査が必要となります。

椎間板ヘルニアの治療法

椎間板ヘルニアの治療法は、内科治療と外科治療に大別されます。
内科治療は安静が基本で消炎剤や鎮痛剤を使用して疼痛症状や脊髄圧迫による浮腫や炎症が緩和されるのを待つ方法です。

外科治療は手術によって逸脱した椎間板物質を取り除くなどの方法で脊髄にかかる圧力を外科的に低減する方法です。内科治療と外科治療のどちらを選択するかは患者ごとに異なりますが、内科治療に反応しない/内科治療が出来ない(安静にできない)患者や脊髄の圧迫がひどく麻痺が重度の患者では外科治療が選択されます(深部痛覚という感覚がなくなっている患者は内科治療では回復が見込めず迅速な外科治療の実施が必要とされています)。

外科治療の術式は複数あり、病変部位や病変の数などに応じて選択されます。
一般的に頚部の椎間板ヘルニアではベントラルスロット(頚部腹側減圧術)と言うお腹(喉)側から手術を行う方法が実施され、胸腰椎の椎間板ヘルニアではヘミラミネクトミー(片側椎弓切除術)などの背中側から手術を行う方法が実施されます。

椎間板ヘルニア手術症例

今回は当院で実施した胸腰椎部の椎間板ヘルニア手術症例をご紹介します。
患者は3歳のミニチュアダックスフンドで数日前から食欲はあるが元気が無く震えている、体を触ると痛がっているとの症状で来院されました。
来院時は背中を丸めてお腹に力が入った状態で固まってしまっていました。

四肢の痛覚は正常でしたが両後肢の感覚低下が認められ左後肢は麻痺している状態でした。その他神経機能の検査も実施し、胸椎または腰椎の椎間板ヘルニアが疑わしいと判断しレントゲン検査を実施しました。今回の症例ではレントゲンだけでは正確な病変部位が判断できなかったことと、麻痺が生じており外科手術が必要となる可能性があったため画像診断施設にてMRI検査を実施してもらいました。

MRI検査で第13胸椎と第1腰椎の間の椎間板ヘルニアが見つかりました。典型的なハンセンⅠ型のヘルニアで、逸脱した椎間板物質による脊髄圧迫も比較的強い状態でした。

飼い主様と相談し、本症例では外科手術を実施しました。自宅での安静が難しいこと、画像上脊髄の圧迫が強く麻痺が出始めていることから内科治療ではなく手術(ヘミラミネクトミー)を選択されました。

手術は無事成功し、脊髄を圧迫していた椎間板物質は無事摘出できました。
術後の回復も良好で術後3日後には痛みもなくなりスムーズな歩行が可能となりました。退院後は麻痺や後遺症もなく、お薬も使用せずに椎間板ヘルニア発症前同様の生活が送れています。

わんちゃんの椎間板ヘルニアはよく認められる神経疾患の一つではありますが、痛みの症状がわかりにくく腹痛などと勘違いされる場合もあります。若い子でも発症することがありますのでいつもより元気がない、どこかがいたそうだけれどもはっきりしないなど気になる症状がある場合は是非一度ご相談ください。

渋谷、恵比寿、代官山の動物病院(年中無休、年末年始も診察している動物病院)
HALU代官山動物病院
03-6712-7299
info@halu.vet

担当獣医師

内科・脳神経科

浅田 (アサダ, Asada)獣医学博士

てんかんを中心とした神経疾患とその治療について研究をしました。現在大学病院でも助教として脳神経科の診療に携わっています。

関連記事