猫の慢性的な消化器症状は慢性腸症とよばれ、食物反応性腸症とIBD(Idiopathic Inframmatory bowel disease、特発性炎症性腸疾患)に分けられます。
今回はその中でも、IBDについて症例も合わせてお話しします。
猫のIBDってどんな病気?原因は?
病因は明らかにはなっていませんが、人や犬と同様に、消化管粘膜の免疫と環境因子(腸内細菌叢や食事など)の相互作用によって慢性的な消化管炎症を引き起こし、慢性的な消化器症状を出します。人では、最近話題にもなった、潰瘍性大腸炎もそれに当たります。
主な症状としては、嘔吐や小腸性下痢、それに伴い食欲低下や体重減少が見られることもあります。どの年齢のどの猫種でも発症しますが、中年齢での発症が多く認められます。
重度だと、下痢などの症状によって、栄養不足となりアルブミンという身体に重要なタンパクが減ってしまうこともあります。
どうやって診断するの?
慢性腸症の診断は、基本的には他の疾患を除外することで診断していきます。身体検査や血液検査、画像検査、便検査などで異常が見られなければ慢性腸症を疑います。ただ、この時にもう一つ考えなければならないのが消化管型リンパ腫です。
年齢や症状の重症度から慢性腸症が疑われる場合には、食事の変更(低アレルギー食など)をして食事反応性腸症かIBDかの判断をしていきます。7日以内に症状の改善があれば食事反応性と診断されます。
一方、重症度が高かったり、IBDやリンパ腫が疑われる場合には内視鏡検査と粘膜生検を行い診断をしていく必要があります。
IBDの治療はどうするの?
治療法は、抗菌薬やステロイド、あるいは免疫抑制剤などの内服治療がメインになります。これらによって、症状の改善が見られれば少しずつ減薬していきます。
症例紹介
それでは実際の症例をご紹介します。
症例は2歳の猫で、1歳頃から下痢や嘔吐を繰り返していました。
初めは、数回の嘔吐や、数回の下痢で、一般状態に問題はなく、血液検査や便検査でも異常は認められず、便PCR検査も陰性でした。エコー検査でも胃腸炎所見は認められますがその他の疾患は認められなかったため、対症療法を行っていました。その時の画像所見が下の画像になります。
左が胃のうっ滞している像、右が十二指腸の動きが落ちていてうっ滞している像になります。
しかし、対症療法で一時的に改善が認められるも、少し経つとまた消化器症状を繰り返すため、慢性腸症を疑い、まずはフードの変更を実施しました。
まずは、低脂肪高繊維食を試しましたが、改善が認められず、加水分解食に移行しましたが、加水分解食にも反応は見られませんでした。
その間、一般状態は維持されていましたが、何度か下痢や嘔吐などの消化器症状が認められていたため、飼い主様と相談し、内視鏡検査を実施する事となりました。
内視鏡検査では、肉眼的には明らかな異常所見は認められませんでしたが、粘膜生検では軽度の炎症所見が得られました。
軽度の炎症所見は認められましたが、リンパ腫は否定されたため、「IBD」の確定診断となりました。
通常IBDの場合、炎症所見があるため、上記したようにステロイドの内服にて治療をするのが一般的です。しかし、高容量のステロイドを長期的に続けるとステロイドの副作用が出てしまう事があるため、消化器症状が治まってきたら減薬をしていきます。
しかし、猫では、抗菌薬反応性下痢というのは明確に定義されていませんが、軽度のIBDの症例には抗菌薬の投与で腸内細菌叢の改善が認められるためか実際に症状が改善する症例がいます。
そのため、今回の症例に対しても、飼い主様と相談し、抗菌薬を使用し、反応を見てみる事としました。
今回の症例では、抗菌薬の効果が見られ、消化器症状は改善し、今は抗菌薬も減薬して、整腸剤とご飯だけでの維持を目指しています。
以下の画像は腹腔内リンパ節になります。左が治療前で、リンパ節が大きくなっていますが、右の治療後は小さくなってきています。
消化管の炎症によって大きくなってきていたことが考えられます。
今回の症例のように、一見元気だけれど、消化器症状が続いている猫ちゃんはもしかするとIBDが隠れているかもしれません。
IBDも重度になると、痩せてしまい命に関わる病態になってしまう事もあります。
また、高齢の猫ちゃんでは、上記したようにリンパ腫との鑑別がすごく重要になってくる為、対症療法に反応しない場合には精査する事をお勧めします。
慢性的な下痢や嘔吐にはお腹が弱いだけでなく、何か病気が隠れているかもしれません。ご心配な時には一度当院までご相談ください!
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