日々の診療の中で、下痢で来院されるケースは少なくありません。多くの場合は一回の治療で良くなってくれます。しかしながら、中にはなかなか治らずに下痢を繰り返してしまうケースがあります。
動物が下痢をしてしまった場合、病院ではどのような検査が行われるのでしょうか。また、慢性的な下痢の場合にはどのような病気を考えていく必要があるのでしょうか。
①問診・身体検査
下痢には、『小腸性下痢』と『大腸性下痢』の二種類があります。これらは、便の様子や頻度などから分類できることがあります。必ずしも区別できるとは限りませんが、分類できると原因特定のヒントになります。
例えば、内分泌疾患や膵臓疾患は小腸性下痢を引き起こす一方で、肛門周囲の病気では大腸性下痢を引き起こします。また、食事や感染症が原因の場合は小腸性下痢・大腸性下痢どちらの原因にもなり得ます。
②糞便検査
感染性の下痢を除外するために行われます。
便を顕微鏡下で観察することで、下痢の原因となる細菌や寄生虫卵を発見できることがあります。しかしながら、顕微鏡での観察では、病原体の特定には至りません。必要に応じて便のPCR検査を行うことで、特定の病原体の感染の有無を調べることができます。また、ジアルジアという原虫の感染症や、パルボウイルス感染症は院内のキットで診断ができます。
このような検査で、感染性の下痢が疑わしい場合には、病原体に効果のある抗生剤による治療が行われます。
(写真は、糞便中に見られた回虫いう寄生虫の卵です。駆虫薬の投与が必要になります。)
③血液検査・画像検査
膵臓や肝臓の疾患、内分泌疾患や腫瘍、全身性の感染症も下痢の原因となります。これらは血液検査や超音波・レントゲンといった画像検査からヒントが得られることがあります。この中には嘔吐や食欲不振といった下痢以外の消化器症状や、多飲多尿や発熱など消化器以外の症状を出す病気もあります。下痢以外にもいつもと違う様子がないか、注意しておきましょう。
(上の超音波画像は、慢性的な下痢を起こしていた猫ちゃんの消化管の様子です。小腸の筋層が肥厚していることが分かります)
④試験的治療
上記の検査で明らかな原因が特定できない時に、原因を推測した上で抗生剤の投与や食事療法を行い、その反応を見る方法があります。
⑤内視鏡検査
内視鏡の検査では、糞便検査・血液検査・画像検査で見つけられない疾患を見つけられることがあります。内視鏡で消化管内の状態を画像として確認し、『生検』といって消化管の組織の一部を採取し病理検査を行うことができます。例えば、炎症性腸疾患(IBD)やリンパ腫といった疾患は①~④の検査や治療では特定できず、この内視鏡生検で診断されることがあります。
(慢性的な消化器症状があった症例の内視鏡検査の画像です。消化管に一部が赤く腫れ、炎症が起きていることが分かります)
◆症例紹介
それでは、ここからは当院で慢性下痢の治療を行なったわんちゃんを例に、実際にどのような検査が行われているのかを紹介していきます。
このわんちゃんは下痢で来院され、抗生剤と下痢止めを内服していましたが、下痢が止まらず再度来院されました。糞便検査では、PCR検査も含めて明らかな異常が見られませんでした。消化管の画像検査では、小腸の炎症が見られましたが、その周囲の膵臓や肝臓、内分泌疾患にかかわる副腎には異常が見られませんでした。
(超音波検査では小腸の一つである十二指腸に炎症が見られました)
膵臓疾患や内分泌疾患をしっかり否定するためにも精査を行いましたが、どちらも否定的でした。診断が出るまでの間、抗生剤や低脂肪の食事を続けましたが、嘔吐や軟便といった消化器症状は完全には治らない状態が続きました。
これらの検査結果や症状から、炎症性腸疾患(IBD)を疑い、ステロイドの治療を開始しました。
現在はまだ、治療の反応を見ている段階ではありますが、消化器症状は出ておらず、元気に過ごしています。
このように、ひとくちに下痢といっても、一時的で軽度なものから、全身性の疾患を考えていかなければならない病態まで幅広いことが分かります。また、初めは軽度なものでも下痢が続くことで、動物の体力が奪われ、状態が悪化することも多くあります。
気になる症状があった場合には、早めの来院、必要な検査を行うことをお勧めいたします。ご相談ください。
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