元気がない

【溶結性貧血】猫の免疫介在性溶血性貧血~歯茎の色大丈夫ですか?~

今回は、突然貧血になってしまった猫の症例のご紹介です。

症例は猫ちゃんで、主訴は2か月ほど津図いて化膿している皮膚腫瘤で来院されました。

身体検査では、体温は39.8℃とかなり上がってしまっており、また、目からは目ヤニが出ており、鼻水も認められ、鼻炎、結膜炎所見が見られました。

発熱と慢性的な咳があったことから肺炎も疑い、血液検査とレントゲン検査を実施したところ

血液検査では白血球の上昇と血小板の重度減少、炎症の数値のかなりの上昇、

レントゲン検査では肺野全体で肺炎と気管支炎の所見が認められました。

 

ここまでの検査で、肺炎があることは確定したのですが、血小板の減少の原因の判断が難しく、まずは肺炎と肛門腺に関して入院で治療を行い、血小板がさらに下がったり、同時に貧血になっていかないか注意することとしました。

ここで、血小板が少ないことに関して、貧血と関連があるの?と思う方もいらっしゃるかと思いますので、少し説明を入れていきます。

血小板とは・・・

ご存じの方も多いと思いますが、血小板は血液に含まれる細胞の一つで、血管が破綻してしまった場合に血を固めてその部分をふさぐ役割をしています。そのため、血小板が減ってしまうと内出血などの出血が増えることで、気づくことが多いです。

では血小板が減ってしまう原因は何でしょうか?

原因としては、大きく分けて

・ウイルス感染

・骨髄の異常

・免疫介在性(免疫疾患)

などが考えられますが、他にも先天疾患や薬剤使用など原因はあります。

免疫介在性疾患

このうち、免疫介在性疾患で血小板が下がってしまう病気を、免疫介在性血小板減少症(ITP)といい、しばしば免疫介在性溶血性貧血(IMHA)と併発します。体の免疫機能が異常を起こしてしまい、自分の血小板や赤血球といった細胞を攻撃して壊してしまう病気です。

免疫介在性疾患の原因は不明なことも多いですが、原因の一つとして強い炎症性疾患に続発して起こることもあります。

診断は、血液を顕微鏡で観察すること、自己抗体があるかどうか、発熱があるかどうか、など総合的に判断して診断します。

治療法は免疫を抑えるお薬の投与、つまり高容量のステロイド剤の投与や免疫抑制剤の投与になります。ただし、感染症がある場合に免疫抑制をかけると、悪化してしまうため感染症がある場合の免疫抑制はかなり注意が必要となります。

 

今回の症例は入院後、抗生物質と抗ウイルス剤の投与を開始しました。その結果、咳や眼脂、鼻水はなくなり、食欲もあり、一見元気そうではありましたが、やはり血小板の数値が上がらず、3日がたった時の血液検査で、貧血の数値が大きく低下(ヘマトクリット値:20%)してしまいました。

その時の血液は肉眼では下のようにつぶつぶしており(上)、顕微鏡下(下)でもいわゆる自己凝集していたことから、上記していた免疫介在性疾患、つまりITPとIMHAの併発が強く疑われました。

 

そのため肺炎はまだ完治ではありませんでしたが、免疫抑制をかけるためにステロイド剤の投与を開始して、数時間後にもう一度採血をしましたが、貧血の進行が止まらず、貧血の数値(ヘマトクリット値)は15%→14%とどんどん下がってしまい、このまま貧血が進行すると致命的になってしまうため、輸血を実施することとなりました。

輸血後少し貧血の数値は20%と少し改善したものの、ステロイドの効果があまり期待できないと考えられましたので免疫抑制剤を追加することとしました。しかし、免疫抑制剤の効果が見られるまでは数日~2週間ほどかかってしまうため、このまま貧血が進めば別の治療を追加しなければなりません。

免疫抑制剤を追加して次の日には再び貧血の数値が下がってきてしまい、14%となってしまい、体の中で異常に作られた自身に対する異常免疫を一時的に中和することで症状を改善すると言われているヒト免疫グロブリン製剤を使用し、貧血が下げ止まってくれるかどうか見ることとしました。

その後、数日は10~14%ほどを上下しており低い数値でしたが、その後18%→23%→27%と貧血の数値は少しずつ上がり始め、正常値とはいかないまでも少しずつ安定してきてくれて、血小板の数値は正常値まで上がってくれました。

 

 

猫の免疫介在性溶血性貧血や免疫介在性血小板減少症は珍しい疾患で、今回も治療には大変苦慮しました。

ステロイドだけで効果が見られる症例もいますが、今回の症例に関してはステロイドのみでは効果が得られず、免疫抑制剤やヒト免疫グロブリン製剤などの使用にも至りました。

猫ちゃんの貧血の原因はさまざまですが、貧血を引き起こすと元気や食欲がないなどの症状以外に、歯茎や舌の色が下の写真のように白くなってしまいます。また、黄疸が出てしまい、おしっこの色がオレンジ色になってしまうこともあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日ごろから口の色やおしっこの色を注意して見てあげて、病気の早期発見をしてあげましょう!

今回の症例のようになかなか良くならない、治療効果が得られにくい免疫疾患の症例もいることと思いますが、当院ではそういうわんちゃん、猫ちゃんにも、ご家族としっかりと相談して治療方針を決めていきますので、一度ご相談ください。

 

渋谷、恵比寿、代官山のHALU動物病院(年中無休)

03-6712-7299

 

担当獣医師

内科・循環器科・軟部外科

游 (ユウ)HALU代官山動物病院 院長

「たとえ病気になったとしてもその中で一番幸せに暮らせるように」
患者さん、家族、獣医師間の密なコミュニケーションを大切にしています。

内科・眼科

宮本 (ミヤモト)

動物たちからたくさんのことを感じ取り、からだへの負担をできる限り少なくすること、ご家族さまとのコミュニケーションの中で治療方針をご一緒に考えていくことを大切にしています。

内科・画像診断科

岩木 (イワキ)

多くの選択肢をわかりやすくオーナー様に提供でき、大切な家族の一員である子たちにとって最適な治療計画を一緒に見つけられる存在であるために、寄り添える獣医師を目指しています。

内科・脳神経科

浅田 (アサダ)獣医学博士

てんかんを中心とした神経疾患とその治療について研究をしました。現在も研究生として大学院および大学病院において研修を行っております。

内科・鍼治療

永田 (ナガタ)

病気と向き合う中でどうしたら現状を良くしていけるのか、プラスになりそうな 事をひとつひとつ考えながら、より良い時間を過ごせるようなお手伝いができたらと思っています。 些細なことでも、気軽にご相談ください。

循環器科・内科・軟部外科

湯沢 (ユザワ)

動物は、家族にとってかけがえのない存在です。 愛おしくもたくましい彼らの人生が、長く幸せで楽しい時間であるためのサポートをすること!をモットーにしています。

関連記事