
当院では誤食による消化器症状で、来院される方が多くいらっしゃいます。
そこで今回は誤食してしまったかもしれないアクシデントに遭遇した場合の、対処についてご紹介したいと思います。
- 誤って、意図してないものを食べてしまった!場合
目の前で確実に飲み込んだのであれば、飲み込んだ物にもよりますが、数時間以内なら催吐処置で吐かせることができます。誤食に遭遇した場合は、何をいつ飲み込んだのか?まずお電話にてご相談ください。
- 留守中に部屋が荒らされている、あったはずのものがない!場合
数時間以上経っている場合、誤って食べたものは胃から流れてしまっている可能性が高いため、催吐処置の適応にならないことがあります。その場合、症状の程度や飲んだものによって必要な検査は以下のように異なります。

〇超音波検査
胃腸の蠕動運動や粘膜の状態、閉塞の有無を確認するのに優れています。
胃から異物が流れてしまい、どこかに詰まればそれを見つけることができます。
ただし胃内を評価するのは難しく、食渣があるとより煩雑です。
よほど大きなものや異質なものでないと食渣に紛れてしまい、その存在を確定することはできません。
〇X-RAY検査
金属や石といった鉱物など硬いものであれば、X線画像にてしっかり確認できるため、異物の位置を特定できます。
しかし、木材・ウレタン・プラスティック・ビニール・布等、よくおもちゃなどで使われている素材はうつりません。
腸内にたまっているガスなどで走行を確認し、異常がないかを推察することはできます。
〇血液検査
全身状態の把握に役立ちます。
脱水の有無や、消化器症状によっておこる電解質の異常や炎症の程度、膵炎の併発がないかなどを確認することができ、治療強度を決定するのに役立てることができます。
実際の治療のパターンは?
誤って食べてしまったものが体に悪影響があるかどうかは、本人の体格や飲み込んだ物の形状によるため、いろいろなパターンがあります。
一般的に、わんちゃんでは梅干しや果物などの大型な種、おもちゃ、骨、トウモロコシの芯、布等が閉塞リスクが高いといわれています。
また、ねこちゃんではウレタンマット、紐状おもちゃ、ゴム等に閉塞リスクが高いと言われています。
これらを考慮した上で、以下のような治療パターンの中から適切なものを選択します。

★パターン1
誤食後、超音波検査を実施し閉塞所見がないことを確認して、食べたものは悪影響をもたらさないと仮定して経過観察。
便から異物が排出されるのを待つ。
★パターン2
誤食後から/最近元気だけど間欠的な嘔吐が続いている(週2~3回の嘔吐)。
→胃内に異物が残っているかも…
検査ののち胃内異物を疑えば、内視鏡で摘出を考えるが、とがっていたりサイズ的に取れないものであれば胃切開を検討。
★パターン3
誤食後嘔吐、下痢症状が認められる。→超音波検査にて閉塞所見はないが、胃腸炎が強く起こっている場合。
内服or程度によっては入院による治療を行う。
★パターン4
連日吐いていて、元気がない。
超音波検査で閉塞所見ある、あるいはX線画像検査で閉塞物の存在が確認できた場合。
即日手術→入院治療にて回復を目指す。
今回は当院で見受けられたパターン4の症例紹介です。
【症例】成猫 マンチカン
【主訴】前日のお昼留守中に、3か所に嘔吐あり、食欲もあまりなくぐったりしていた。夜ちゅーるは、なめたが、その後お水を沢山飲みそれも嘔吐。
今朝も体調はかわらず、元気がない。
【診断】腹部超音波検査で、胃~十二指腸の鬱滞が重度に認められた。たどっていくと、十二指腸下部で1㎝大の異物による閉塞所見が認められた。さらなる位置の確認と、エコーの輝度からうつる可能性も考え、X線画像でも評価を実施。円盤状の異物の存在が確認できた。


【治療】早期の外科介入が必要と判断し、血液検査・胸部X線画像検査を追加。軽度なBUNの上昇、軽度低カリウム血症、SAA高値が認められ、点滴治療で是正しながら、即日開腹手術を行った。


閉塞部周辺の腸組織に壊死はなく、血流が保たれていたため部分切開で異物を摘出、縫合後閉腹した。入院3日で帰宅。食欲・元気は日に日に回復し、血液の異常値も改善が認められた。
成人では、あまり聞きなれない誤食。ヒトは赤ちゃんの頃に、周りにあるもの手当り次第舐めたり、口に入れたりすることでその性質を認識し、脳の発達を促すために重要な行動といわれています。
しかし、その時期のお母さん方は、赤ちゃんがそれを飲み込んでしまわないか常に目が離せず、ひやひやする時期でもあります。
わんちゃん、ねこちゃんの知能は、人間の2~3歳程度だと考えられています。
楽しくて必死になって噛んでいたら、取れてしまった部品を飲み込んでしまうことや、いいにおいがついていたら勢い余って食べ物以外のものも一緒に食べてしまうことは、容易に想像できます。
腸閉塞で来院される飼い主様の半数以上が、手術後におっしゃいます。
「いつ食べたものなのか…わからないです。」
私たちの想像をこえて、いろいろなものに興味を持って食べてしまうわんちゃんやねこちゃん。
大切なご家族である彼ら彼女らに辛い思いをさせないよう、今一度留守中の過ごし方や、お散歩の仕方など生活環境を見直してあげましょう。
よくある質問
Q.腸閉塞を予防するには、どのような点に注意すればよいですか?
A. 日常的に部屋を整理し、小物やおもちゃなどペットが興味を示しやすいものは手の届かない場所に置きましょう。
食べ物以外の物にも匂いがつかないように気をつけます。
また、遊ぶ際は誤飲の危険が少ない安全な素材のおもちゃを選び、遊んだ後は必ず片付けることを習慣にしましょう。
Q.腸閉塞が疑われる時、絶対にやってはいけないことはありますか?
A.自宅で無理に吐かせたりすることは非常に危険です。
誤った対応で症状が悪化する恐れがあるため、何か異変を感じたら自己判断せず、すぐに動物病院へ連絡しましょう。
その際、何をいつごろ食べたか分かる範囲で伝えることが診断の助けになります。
Q.腸閉塞の治療後に家庭で気をつけるべきことはありますか?A.術後は安静が必要ですので、激しい運動やジャンプなどを避け、術部をなめさせないよう注意しましょう。
また、食事は動物病院で指示された内容・量を守り、食欲不振や嘔吐がみられたら早めに再診してください。
再発防止のためにも再び誤食が起きない環境づくりが大切です。
