足が痛い

【軟部組織肉腫】~猫ちゃんの跛行~

今回は猫ちゃんの後肢にできた腫瘍について紹介します。

1週間前に高いところから落下してしまい、その後から左の後ろ足を気にして歩いているとの主訴で来院されました。猫ちゃんは9才の女の子です。

元気や食欲に問題はなく、高いところに飛び乗ることもできるが、時々左後肢を気にするような仕草を見せるとのことです。

触診をしてみると、左後肢の踵の部分が腫れていて、関節の動きがやや硬くなり、伸ばそうとすると痛みが出る様子が見られました。着地、負重はできていることから骨折の可能性は低いと思われましたが、念のためX線検査を実施させていただきました。

写真1:患肢 足根関節において軟部組織の腫れをみとめ、脛骨および腓骨の融解が見られる
写真2:患肢対側 足根関節は正常に観察される。

 X線検査において左足根関節部において軟部組織(筋肉や脂肪組織)に腫れが認められ、同部位において脛骨、腓骨の移行帯不明瞭な地図状融解が認められました。

同時に行った血液検査においては、血球検査により白血球18700/μl(好中球12770/μl)、炎症マーカーであるSAAの軽度上昇が認められました。

鑑別診断

この時点において鑑別診断として、関節部の感染からの骨融解、軟部組織肉腫、骨肉腫等の悪性腫瘍が考えられました。原因追及の為、麻酔下にてCT及び局所生検をご提案し実施させていただきました。

手術前組織検査

組織生検の結果は肉腫NOS(腫瘍の由来ははっきりしないが悪性の腫瘍)

線維肉腫や悪性末梢神経鞘腫の可能性が考えられ、骨肉腫に特徴的な所見は見られず否定的とのことでした。

上記の腫瘍は軟部組織肉腫に分類されます。これは間葉系腫瘍の総称で、体の様々な部位に発生します。猫の皮膚および皮下腫瘍の約7%を占めます。ほとんどは孤発性で、中~高齢で起きやすいといわれています。原因や由来に加えて挙動が異なる軟部組織肉腫として、高齢猫の孤発性の線維肉腫、注射部位肉腫、ウイルス誘導性肉腫、悪性末梢神経鞘腫が挙げられています。一般的に局所浸潤がつよく、切除時に辺縁部に細胞を取り残してしまうと局所再発が高い確率で認められますが、遠隔転移は起こしにくい腫瘍とされています。

組織生検結果をもとに、腫瘍のみを取ることは難しいが、腫瘍を取りきることで完治が望める腫瘍である事をオーナー様に説明させていただき、相談のうえ、左後肢の断脚術を行う事としました。

手術は常法通りに行われ、猫ちゃんは3日の入院にて元気に退院しました。

術後病理組織検査による診断

術後に行った病理組織診断では、紡錘形細胞腫瘍(低悪性度)

高悪性度の肉腫は疑われず、神経鞘腫などの低悪性度の紡錘形細胞腫瘍と判断される。また膝窩リンパ節への転移も認められないとの結果でした。

今回の症例では局所浸潤が強い悪性腫瘍が疑われたため、後肢の断脚術という術式を選択する事になりました。

猫ちゃんでは事故や怪我、血栓症や悪性腫瘍により、断脚術をやむなくせざるをえない時があります。

断脚術を行う事で強い痛みを持ちながらの生活に比べQOL(生活の質)の良化が望める場合や、寿命を延ばすことができる可能性がある場合です。

見た目はかわいそうと思ってしまいますが、猫はいたって明るく、ほとんど健常な猫と同じ生活が可能です。

今回手術を行わせていただいた猫ちゃんも厳しい選択でしたが、術後の回復はとてもよく、抜糸をする頃には高い所にも飛び乗っています。手術前よりも元気になりました!とオーナー様より嬉しいお言葉を頂きました。

発症した腫瘍は遠隔転移の少ない腫瘍ではありますが、今後も定期的な健診をさせて頂きながら、ハンディキャップを持ったことで起こる問題や心配事に寄り添って治療をさせて頂こうと思います。

中高齢の猫ちゃんの跛行には色々な可能性

中高齢の猫ちゃんの場合、跛行の原因が、落下などによる外傷(ねん挫や骨折)、年齢からくる変形性関節炎に加え、今回のように腫瘍が発生している場合もあります。歩き方の変化や高い所に登りたがらない、体重の減少など気になることがありましたら、早めにご相談いただければと思います。

渋谷、恵比寿、代官山の動物病院(年中無休、年末年始も診察している動物病院)
HALU代官山動物病院
03-6712-7299

担当獣医師

内科・循環器科・軟部外科

游 (ユウ, Yu)HALU代官山動物病院 院長

English/Chinese Speaking Veterinarian
「たとえ病気になったとしてもその中で一番幸せに暮らせるように」
患者さん、家族、獣医師間の密なコミュニケーションを大切にしています。

内科・眼科

宮本 (ミヤモト, Miyamoto)

English Speaking Veterinarian
動物たちからたくさんのことを感じ取り、からだへの負担をできる限り少なくすること、ご家族さまとのコミュニケーションの中で治療方針をご一緒に考えていくことを大切にしています。

腫瘍科

佐々木 (ササキ, Sasaki)獣医腫瘍科認定医1種、JAHA内科認定医

腫瘍の治療は画一的なものではなく、同じ疾患であってもその子やご家族の状況によって、最適と考えられる治療方法は異なります。
何かお困りの事があればご相談ください。

関連記事