皮膚のしこり

【肥満細胞腫】皮膚にしこりができた – 猫ちゃんに多い腫瘍

「皮膚にしこりができています」という相談は、日々の診察の中でもよく聞かれる相談です。

しこり、できものというと「悪いものだったらどうしよう」「手術で取れるのか、抗がん剤が必要なのか」と心配になることも多いと思います。

今回の記事では、実際に当院で診断し、外科手術によって切除した猫の「皮膚肥満細胞腫」について紹介します。

肥満細胞腫とは

肥満細胞腫は、その名の通り「肥満細胞」という細胞が腫瘍化したものです。この肥満細胞はもともとアレルギー反応や炎症反応に関わる細胞です。

猫の肥満細胞腫は、皮膚、腸管、脾臓、肝臓に発生する悪性腫瘍です。

特に今回紹介する皮膚の肥満細胞腫は、猫の皮膚腫瘍の中で発生率が一番高いです。また、猫の脾臓でも最も多い腫瘍であり、腸管でも3番目に多い腫瘍であることから、猫の多くの腫瘍性疾患の場合に、肥満細胞腫の可能性を考える必要があります。

検査

今回の症例では、肩甲骨のあたりに2mmほどのできもの(腫瘤)があると来院されました。

腫瘤性病変の診断のための検査として、「細胞診検査」があります。腫瘤に針を刺して中の細胞や構成物を採取し、顕微鏡で観察します。あくまで針先の部分的な検査になるので、確定診断ではないですが、その場で疑わしい病気を探すのには有用な検査です。

今回の症例でも、この肩の腫瘤に対し細胞診検査を実施しました。顕微鏡で観察をすると、肥満細胞が多数認められました。

肥満細胞の特徴は、細胞の中に顆粒を持っていることです。細胞が壊れて周囲にこの顆粒が散っている様子も見られます。

実はこの猫ちゃんは、以前にも一度皮膚に肥満細胞腫ができたことがあり、切除手術を行ったことがありました。皮膚肥満細胞腫は、頭頸部での発生が多く、また再発することが多い腫瘍です。

この細胞診検査、発生部位、以前の病歴から皮膚肥満細胞腫の再発が疑われました。

次に、肥満細胞腫は上記のように、肝臓や脾臓、腸管にも多い腫瘍です。今目に見えている皮膚の肥満細胞腫が皮膚だけのものか、内臓の腫瘍の転移なのかを調べる必要があります。

この猫ちゃんでは、腹部超音波で臓器に異常は見られず、皮膚のみの肥満細胞腫と判断できました。腹腔内臓器の肥満細胞腫が疑わしい場合は、エコーを見ながら細胞診検査を実施することもあります。

治療

皮膚のみに発生した肥満細胞腫は外科切除により良好な経過をたどることが多いです。今回の猫ちゃんも、この肥満細胞腫を切除しました。

手術部位の毛刈りを行い、切除する場所を明確にしていきます。目に見えている腫瘍だけでなく、腫瘍細胞が周囲に広がっている可能性を考え、周囲半径3cmの皮膚を切除します。このとき腫瘍細胞を取り残してしまうと、そこから再発するリスクがあります。

実際にメスや外科鋏で皮膚を剥がしていきます。このとき腫瘍も一緒に切除できます。さらに、皮膚の悪性腫瘍の場合、筋膜を超えて広がることはなく、逆に言えば筋膜までは腫瘍細胞が広がっている可能性が考えられます。このため、完全切除を目指し筋膜まで切除していきます。

切除した腫瘍は、外部の検査センターへ提出し、病理学的検査によって確定診断を行います。

病理検査結果は肥満細胞腫でした。また、切除縁(手術の切り口)にも腫瘍細胞は認められず、今回の肥満細胞腫は全てを切除できたと判断できました。

肥満細胞腫の代表的な腫瘍随伴症候群

上記のように、肥満細胞はヒスタミンなどの顆粒内物質を放出する働きがあります。これらの物質によってさまざまな「腫瘍随伴症候群」をもたらします。

高ヒスタミン血症

ヒスタミンは胃壁に作用し胃酸分泌を促進したり、胃壁の血行障害を引き起こしたりすることで、胃潰瘍の原因になります。また、心臓や全身の血管系に作用し、低血圧を引き起こします。

ダリエ兆候

肥満細胞腫への物理的な刺激によって、紅斑、浮腫、皮下出血、掻痒など「ダリエ兆候」を引き起こします。このような症状を抑えるため、抗ヒスタミン薬を使用することがあります。

癒合遅延

肥満細胞中の顆粒(特にヒスタミンやタンパク分解酵素)は癒合遅延の原因になります。このため手術で肥満脂肪腫を切除した際は、周囲に顆粒物質が存在している可能性を考え、洗浄することが必要です。

まとめ

今回は皮膚肥満細胞腫と、その外科的な治療を紹介しました。皮膚や皮下の腫瘤は日々生活の中で発見しやすく、よく相談を受ける内容です。

一方で内臓の腫瘤は、ある程度大きくならないと発見できないこともあります。このような内臓の問題を早期発見するためには、定期的な健康診断を活用することをお勧めします。

腫瘍の種類や、どのくらい進行しているのか、どこにできた腫瘍なのか、など様々な要因で治療方針は変わってきます。早期発見・診断を行うことで根本治療を目指せることもあります。

腫瘍と聞くと、不安になってしまう方も多いと思います。

当院では、専門医と連携をとりながら、ご家族様ごとの最適な治療を提案できるよう努めておりますので、何か心配なことがありましたらお気軽にご相談ください。

HALU代官山動物病院

担当獣医師

腫瘍科

佐々木 (ササキ, Sasaki)獣医腫瘍科認定医1種、JAHA内科認定医

腫瘍の治療は画一的なものではなく、同じ疾患であってもその子やご家族の状況によって、最適と考えられる治療方法は異なります。
何かお困りの事があればご相談ください。

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