皮膚のしこり

【乳腺腫瘍】両側乳腺の全摘出をした猫ちゃんの例

今回は『乳腺腫瘍』と乳腺の摘出手術の紹介です。

犬・猫の乳腺腫瘍

乳腺腫瘍は人間でも知られている病気なので、聞いたことがある人も多いかもしれません。わんちゃん、猫ちゃんにとっても、乳腺腫瘍は発生することのとても多い腫瘍の一つです。

特に、雌犬で最も多く発生する腫瘍で、発生する腫瘍の50%が乳腺腫瘍、さらにその乳腺腫瘍のうち50%が悪性腫瘍と言われています。

雌猫では、発生する腫瘍の20%近くが乳腺腫瘍と言われており、その約80%が悪性腫瘍と報告されています。初診時に肺やリンパ節への転移が起こっていたり、摘出後に再発するケースも多く見られます。

このように、犬と猫でも腫瘍の性質が異なることが分かります。

今回は、乳腺腫瘍が発生し、手術によって両側の乳腺を全摘出した猫ちゃんの紹介をします。

診察時の様子

一頭の猫ちゃんが、「乳首のあたりにしこりがある」と来院されました。触診をしてみると、確かに左の第一、第四乳頭に1.5㎝ほどのしこりがありました。また、右の第4乳頭からも血様の分泌物が出ていました。

(写真:左の第一乳頭、第五乳頭)

先ほどお伝えしたように、乳腺腫瘍は、犬・猫ともに発生率の高い腫瘍です。乳首のあたりにしこりがある…という場合、この乳腺の腫瘍の可能性を考えなければなりません。とくに、猫では悪性の乳腺癌の発生率は高いですので、基本的には手術での摘出がすすめられます。

また、乳腺腫瘍の悪性度はしこりの数と大きさで、ある程度の判断ができます。下に乳腺腫瘍のステージ分類を載せておきます。

今回の猫ちゃんは、1.5㎝のしこりでしたが、針を刺してみると周囲から液体が抜け、実際の腫瘍は数㎜の大きさでした。ステージはグレードⅠと判断されました。

ステージ分類腫瘍の大きさリンパ節転移遠隔転移
ステージⅠ<2㎝なしなし
ステージⅡ2~3㎝なしなし
ステージⅢ<3㎝ありなし
>3㎝なしなし
ステージⅣすべてすべてあり

(図:猫の乳腺腫瘍のステージ分類)

この猫ちゃんの場合は、両側の乳腺を摘出する手術をすることになりました。手術の前の検査では、胸のレントゲンを撮影し転移がないかを確認します。また、血液検査で血液凝固に問題がないかを確認します。今回はどちらにも問題はありませんでした。

実際の手術の様子

ここからは、実際の写真もあわせて、手術の様子を紹介していきます。

外科用のはさみや電気メスを使って、尾側から乳腺を筋肉から剥離していきます。乳腺を剥離する際に、付属のリンパ節も同時に切除し、リンパ節への転移がないかどうか病理検査で調べます。

太い血管は、糸で結んで確実に止血をしたうえで切断します。

(写真:太い血管(『浅後腹壁動静脈』)を結紮しているところ)

徐々に剥離を頭側の方へ進めていきます。

第2~3乳腺の外側には『外側胸動静脈』が走行し、その血管の横に『副腋窩リンパ節』があるので、目視で確認しながら乳腺と一緒に切除します。

(写真:副腋窩リンパ節(黄色矢印))

腋窩まで剥離がすすんだら、腋窩にある『腋窩リンパ節』を探し、これも乳腺と一緒に切除します。

(写真:腋窩リンパ節(水色矢印))

今回はどちらのリンパ節も、腫れたり変色したりする様子はありませんでした。

全ての乳腺と付属のリンパ節を切除できたら、縫合をして傷を閉じていきます。

(写真:切除した乳腺とリンパ節、病理検査に提出します)

手術後の経過も問題なく、5日間の入院ののち退院となりました。

後に病理検査の結果が返ってきましたが、腫れていた乳腺のうち一つが悪性である『乳腺癌』、他の二つは良性の『乳腺種』でした。良性のものでも将来的に悪性の癌病変になる可能性は高く、今回は早期の対応が出来た症例となりました。リンパ節への転移は見られず、乳腺癌の悪性度も低いものでしたが、今後他の臓器への転移がないか定期チェックが必要になります。

おわりに

乳腺腫瘍は、犬と猫いでも病態が変わります。転移や再発が多い猫ちゃんの場合、片側のみのしこりの場合でも両側摘出をしたり、片側摘出をした後にもう片方も予防的に摘出をするケースもあります。

今回手術した猫ちゃんは、幸い早期に気付いて来院されたため、ステージが進行する前に手術が出来ました。

乳腺腫瘍はオーナーさんが自宅でわんちゃん、猫ちゃんのお腹を撫でた時に気が付かれるケースも多いです。気になるしこりがある場合、早めの診察をおすすめいたします。月に一度、腫瘍科専門医の診察も行っておりますので、併せてご相談下さい。

また、犬、猫ともに、避妊手術によって乳腺腫瘍の発生率は下がると報告されています。どちらも初回発情前に避妊手術を行う事で、将来の乳腺腫瘍の発生率は、犬で0.05%、猫で9%と大きく下がります。

避妊手術のご相談も随時受け付けております。手術の前には麻酔前の検査が必要になりますので、手術をお考えの方はまず診察のご予約・ご相談をお願いしております。

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担当獣医師

腫瘍科

佐々木 (ササキ, Sasaki)獣医腫瘍科認定医1種、JAHA内科認定医

腫瘍の治療は画一的なものではなく、同じ疾患であってもその子やご家族の状況によって、最適と考えられる治療方法は異なります。
何かお困りの事があればご相談ください。

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